足を止めてれば

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「そういえば──」  酔いもまわって理性が若干弱くなり、変なことを思い出す。 「草加も彼女さんとは上手くいってるの?」  自分で言っておきながら、胸と背筋が物凄い勢いで冷えてゆく。 「何のこと?」 「誰だっけ……名前でてこない……高橋──」  嘘だ。勿論彼女のことも憶えてる。 「綾子? 同じクラスやった」 「そうそう。そんな名前だった気がする」 「が、どうしたん?」 「え? 告白されて、付き合ってたんとちゃうん?」 「いや? 付き合ってへんけど」  驚きのあまり、目がとてつもなく開いた。 「え? じゃあ今は?」 「悲しく独り身や」 「ふーん」  草加が自虐的にヘラヘラと空笑いをする。私は酒を飲む仕草をしながら「そっか……」と素っ気なく返した。驚きとも期待ともつかない、何とも言えない高揚感に覆われていたことは隠せただろうか。
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