足を止めてれば

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 久々の店呑みといっても、お財布事情も乏しいうえに、呑む相手が相手なので酒も食も喉を通り辛い。あまり満足しないうちにラストオーダーすら終わってしまった。時間は日付が変わったばかり。会計を終え外に出ると肌寒い風が身体の熱りを僅かに奪う。駅前の広場まで草加について行くと 「今日は楽しかったよ」  と草加が言った。これは解散する流れになってしまった。 「じゃ、また機会があればこうして話そうや」  と彼は言うが、この手の言葉は所詮社交辞令にすぎない。口では言っても実現する事はまずない。今日遭遇したのも、初めて再開したのが草加だったことも、奇跡だ。ここで終わらせるにはもったいなさすぎる。 「あ! じ、じゃあさ!」  すぐさま頭の中で直近の予定を呼び起こす。来週は流石に近すぎる。再来週は駄目だ、仕事が確実に終わっていない。ならその次は── 「月末の土曜日とか! どう?」  半ば慌てながら強気の一手を打った。どう出るかと固唾をのみ草加を見つめる。 「月末?」  草加が腕を組み、うーんと唸り始める。予定を思い出しているのだろうか。すると突然、 「──ああ、そっか。同窓会あるもんな」  と笑顔になった。
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