鈴香の願い

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鈴香の願い

『こんな日が、ずっと続くと嬉しいな』 鈴香は机の上に置かれた日記の上にペンを置いた。  医者が言うには、ある日突然記憶を取り戻すこともあるらしい。今は断片的な記憶しかないが、もし、自分が全てを思い出したら。  いや、今は受け入れる必要がない。  事故に遭う以前の日記は、怖くてまだ読めていない。なぜか、読んではいけないような気がする。  私は今の私が、私じゃなくなるのが怖い。だから、日記の続きだけを書いている。  母親は時折り何か思い出したか聞いて来る。私は首を横に振り続けているが、きっとこの日記を読めば全てがわかる。  これは私の宝物。私しか知らない、私の記憶。引き出しの奥底から見つけた時は、以前の私に感謝した。  雄介さんとの再会は、本当に嬉しかった。私はずっと待っていた。また、雄介さんに会える日が来ることを。  あれ? そう言えば雄介さん、今までどこに居たんだろう……。この日記を読むと、何故だか雄介さんがいなくなってしまう気がする。  鈴香は机の引き出しの奥に日記を仕舞い込んだ。  医者が言うには、記憶を失う要因は、脳への衝撃だけが原因ではないらしい。精神的なショックも要因になると言う。  でも今は、そんなことはどうでもいい。私は神様にお願いした。 『神様、お願いです。ずっと雄介さんのそばにいさせてください』
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