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大学生時代
「尚、暇だから寄っていけよ」
大学からの帰り道、いつものように圭吾のアパートの前を自転車で通り過ぎようとしたら窓辺から声をかけられた。
「ええーだってまた家を片付けさせるんでしょう」
圭吾はしょっちゅう誘うわりに部屋が足の踏み場もない位散らかっているから片付けることから始めないと駄目なんだ。
「韓国ラーメンあるぞ、ソーセージとチーズも」
もうお昼時だった。
何を食べようかちょうど考えていたところだ。
「もう一声」
そう言いながらも、既に私の口は韓国ラーメン仕様になっている。
「卵もある」
やった。
卵を入れると味がマイルドになって美味しいんだよね。
「仕方ないなあ」
言ってる事とは反対に私はホクホクしながら自転車を彼のアパートの玄関側に回した。
圭吾のアパートは外見は古いけど中は改装してるから新しくて綺麗だ。そして間取りは古いタイプだから1DKでも割と広々としている。キッチンと部屋も分かれてるし。
私が韓国ラーメンを作っている間、圭吾に部屋を片付けさせる事にした。
「なんで女子寮なんて入ったんだよ」
圭吾は脱ぎ散らかした服や靴下、散らばった本やノート、ポストに入っていたチラシなどを片づけながらおきまりのセリフをぶつぶついう。
女子寮は大学の施設のわりに結構離れた所にあるのだ。
圭吾のアパートの方が断然近い。
「なあ、俺んちに来いよ、うち結構広いし」
「ええっ、なんで?」
思わず振り向いたら
圭吾はちょうど使いさしのマグカップを持って来ていた。
髪の毛はボワボワ
ちゃんと頭を洗ったら乾かさなかったのだろう
毛量が多いから顔から上は爆発してる
寝間着代わりの服は高校生の時から着ているジャージの上下。
そんなボロボロの身なりなのに、いやそれだけ自由でいるからこそなのか
高校を卒業してからまだ2、3か月しかたってないのに、圭吾はあの頃より少し大人に見えた。
「お前、昨日男に声かけられてたじゃん、食堂で、
あいつなんかしつこそうだし」
そのままリビングに戻らず私の後ろにまわる。
なんか近い。
ボワボワの髪の向こうに2つの目が見えた。
髪が邪魔でどんな表情をしているか見えない。
「だからって付き合っていない人と一緒に住むの?」
ラーメンの麺とソーセージをスープで3分煮たら鍋に卵を2つ割り入れる。
1分経つたら火を止めて一人分を丼鉢に移した。
圭吾は冷蔵庫からチーズの袋をを出して私に渡した。
鍋と丼鉢それぞれにパラパラとチーズを掛ける。
「なあ、俺ら付き合わない」
「ええっなんでよ」
丼鉢を落としそうになった。
気にせずに隣で圭吾が吊戸棚を開けてわたし用の割り箸を探す。
「あいつがヤバイやつだったらどうすんの、
訳のわからない他の男よりは俺の方がマシじゃない」
「…」
まあ、そうなんだよね。
他の男の人よりは圭吾との方が付き合い易い。
高校から仲良かったし、性格だってわかってるし。
「あー尚、割り箸もう無かった、菜箸で食べて」
「うん、いいよ」
「付き合う付き合わない関係なくさ、もう一人分食器買いに行きたい
どっちにしても尚はこれからもここで飯は食うだろうし
尚以外の奴も遊びに来たら使うだろうから」
私は改めてテーブルを見た。
食器がないから
二人分のうちの一人は菜箸だし
ラーメンは一人分は鍋にそのまま入ったままだし
飲み水が入っている器も一つはご飯茶碗だ。
確かに必要かも。
圭吾は今日は授業の後にバイトがあった。
明日一緒に買いに行く事にした。
その夜、昨日に続けて今夜も高校時代の親友に連絡した。
「圭吾に付き合おうって言われた」
「あーそうか、言ったのかぁ圭吾」
友達の花梨の彼氏は圭吾の友達だったから高校の時はよく皆で一緒に遊んだ。
「でも、あいつ元『鬼畜』だよ。それにその後も散々『友達』って言ってきてたんだよ、なんか変だよ」
「まあ確かに一時期ひどかったけどね。でも最近は心入れ替えたのかそうでもなかったじゃん」
「うーん、でもなあ身近過ぎない?」
「なんで、身近だと駄目なのよ、大体尚って付き合うとかそういう経験ないよね」
「うん」
「ものすごく露骨な事聞くけどさ、昨日の告って来たっていう彼と圭吾、正直、どっちが抱ける」
花梨の切り込み加減ににびっくりしながら答えを考える。
いや、考えるまでもない。
圭吾だ。
圭吾の方が絶対的に安心。
私の事は、なんでもわかってくれてる。
経験値もめっちゃ高い。
それに見た目も圭吾の方が私の好みだ。
まあ誰でも見た目だけなら圭吾を選ぶだろうな。
それ故圭吾はそこそこモテる。
だから付き合うとなると面倒な事に巻き込まれる可能性は大だ。
私はため息をついた。
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