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「アムドゥス」
ディアスがアムドゥスに呼び掛ける。
「くそガキは知らねぇがエミリアは現状無事だな。ケケ、少なくとも死んじゃいねぇ」
アムドゥスはエミリアの位置を感じ取ると答えた。
「方向は?」
ディアスが訊くと、アムドゥスは翼で方向を示した。
ディアスは建物から出てその方向を睨む。
「…………あれで間違いないか?」
「距離的にもあそこのどこかだろうなぁ。ケケケケケ!」
アムドゥスが指した方向はこの街の中心部。
そこにそびえる大きな城をディアスとアムドゥスが遠目に見つめる。
「ひとまず城に向かおう」
ディアスが言った。
「魔人とは入れ違いで、魔人が再びやってくる前に城に保護を求めたのかも知れない。エミリアやアーシュがそう動くとは考えにくいが、医者の主導でそうした可能性がある」
ディアスは城へと向かって。
その道中には慌ただしく駆け回る衛兵達がいた。
ディアスは彼らをやり過ごして城の正門へと続く橋の前へとたどり着く。
大きな石造りの橋の左右にはいくつもの大きな弩弓が備え付けられ、衛兵が周囲の警戒に当たっていた。
ディアスは衛兵の1人に歩み寄った。
衛兵はディアスに気付くと警戒を露にし、腰の剣に手をかけて。
「何者だ。ここは王城へと続く道。許可なき者が通ることはできんぞ」
ディアスはギルドバッジを取り出すとそれを示して。
「俺は冒険者だ。魔人が出たと騒ぎになっていたがそれは把握してるだろうか」
「ああ。ゆえに警戒を強化しているところだ」
「その騒ぎで連れていた少年と少女の行方が分からなくなった。あっちの医者の所で魔人の襲撃を受け、その後を追って戻った頃には医者もろとも姿を消していたんだ。こちらの方に保護を申し出たのではないかと思って来たんだが、そういった話は聞いていないだろうか」
「いや、そんな話は聞いていないし、ここを通った者の中にもそんな子供はいなかった」
「城へと繋がる他の道は」
「いや、城へと続くのはこの橋だけだ」
「そうか。邪魔をした」
ディアスは衛兵に背を向けて歩き出した。
だがその行く手を阻むように他の衛兵達が並んで。
その手は腰の剣の柄を握っている。
「失礼だが、そのフードを取って目を見せてもらえないだろうか」
ディアスの後ろに立つ衛兵が言った。
ディアスは後ろの衛兵へと振り返って。
「俺はギルドの密命を受けている。顔を曝すことはできない」
「先ほど新たな魔人の情報が入った。その魔人は白いフードを被り、無数の剣を帯びているという」
衛兵達がディアスに、にじり寄る。
「ケケケ、めんどくせぇ事になったなブラザー」
アムドゥスがディアスの耳許で囁いた。
ディアスは衛兵に言う。
「魔人でない事の証明なら可能だ。危害を加えるつもりはない。剣を抜かせてくれ。ソードアーツをその証明としたい」
ディアスは腰の剣へと伸ばした。
「許可できない。ここでの抜剣は我が国に対する敵対と見なすぞ」
「…………くそ」
ディアスは腰の剣を抜いた。
両手に剣を構えて。
次いで城に向かって駆け出す。
衛兵達も次々に剣を抜いて。
「門を閉じろ!」
衛兵の1人が叫んだ。
その声を受け、城の大きな正門が轟音を立てて閉じていく。
ディアスは閉じていく門を睨みながら橋の上を疾走。
ディアスの行く手を塞ぐ衛兵の1人がディアスに斬りかかった。
ディアスはその剣をいなすと、衛兵を蹴り倒して。
その体を足場にしてディアスは跳んだ。
「狙い射て! 城に侵入を許すな!」
衛兵の声と共に、ディアス目掛けて弩弓から矢が放れた。
次々とディアスに飛来する、炎を灯した大きな矢。
ディアスは素早く視線を切り、矢の本数と距離を把握。
次いで空中で身をよじると、その矢を全て斬り伏せた。
着地と共にその衝撃をバネにしてさらに前へと跳ぶ。
「大砲、用意!」
城門の左右の壁から大砲の筒先がいくつも顔を覗かせた。
その光景にディアスは大きく目を見開いて。
「アムドゥス!」
ディアスが叫んだ。
アムドゥスは第3の瞳で無数の砲口を視認。
「観測結果……ありゃただの火薬じゃねぇ! 砲弾の威力が桁違いだ。竜種の硬い甲殻も吹き飛ばす代物だぞ!」
アムドゥスが言うとディアスは舌打ちを漏らした。
今にも閉じられようとしている門を睨む。
ディアスは全力で駆けているが、まだ城へと続く橋の半分も過ぎていなかった。
それでもディアスは左右から飛んでくる矢を最小の動きで斬り伏せ、かわしながら門へとひた走る。
だが砲口がディアスに狙いを定めて。
「発射用意!」
城門の壁から声が響いた。
「ソードアーツ────」
ディアスは駆け抜けながら剣の魔力を解放。
そして衛兵の1人が号令を上げる。
「撃ぇ……!」
その声を合図に無数の大砲が炎と共に鈍色の砲弾を吐き出した。
風切りと共に、緩やかに弧を描きながら砲弾が飛来する。
「『裂き乱る刃風、鮮血の花園』!」
ディアスが剣を振り抜いた。
振り抜かれた刃から躍る直視のできない風の刃。
その風の刃は無数の砲弾の表面を舐めて。
砲弾の表面を覆う鋼鉄が、まるで糸がほつれるように剥がれると中の炸薬が発火。
激しい炎と衝撃を逆巻かせ、空中で次々に爆発を起こす。
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