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少女は背中まである黒髪をツインテールに束ね、黒い瞳は凛としていて。
レースのあしらわれた仕立ての良い白いワンピースの上にもこもこのファーとフリルのあしらわれた青いコートを羽織っていた。
少女の腰には赤い細剣が吊り下げられている。
黒髪の少女は胸に手を添えて。
「わたしの名前はフェリシア=レム・レクシオン。複合名は長いので、ここではフェリシアとお呼びください」
「レクシオン……あの国の王族か」
ディアスが言うと黒髪の少女──フェリシアはうなずいた。
「王族が単身、魔人の前に身を晒すとは思えないが?」
ディアスが怪訝な面持ちを浮かべた。
フェリシアは、その赤の瞳に視線を返す。
「でしょうとも。ですが、わたし1人で現れたのは他の者を頼れない状態に今あるからです。名前を偽らずに伝えたのは、わたしからの誠意と受け取ってください」
「また誠意か」
ディアスは呆れたように呟いて。
「俺は魔人だ。誠意なんてものに応えるとでも?」
「わたしの気持ちの持ちようです。王家の者としての矜持がわたしにもありますので」
フェリシアは両手を腰に当てると言った。
次いで小さく咳払いを1つして。
「それに貴方もお困りでしょう。そして、わたしも困っています。貴方は国へ潜入したい。わたしは魔人討伐の力添えが欲しい。ですから交換条件です。わたしは貴方の潜入の手引きができます。その代わり国に巣くう魔人の討伐を手伝ってください」
フェリシアが頭を下げる。
「ギルドへの協力は仰げなかったのか」
ディアスが訊いた。
「それはできません。……できなかったんです」
しゅん、とフェリシアはうなだれて。
「ギルドへの協力要請は却下され、内々に国内だけでの対処が決定されました。ギルド機構へは魔人出現の報告もされてはいません」
「報告もなしか」
「はい。わたしの兄が報告を差し止めたのです」
ディアスはアムドゥスに視線を向けた。
お互いに目配せして。
「その兄が魔人を匿っているわけか」
ディアスが言った。
「…………はい」
フェリシアがうなずく。
「兄は魔人と手を組み、何かを目論んでいます。わたしはそれを阻止したいのですが、父もまた国益のためなら手段を選ばない非常さがあります。もし父もそれに通じていたらと思うとわたしはそれを相談できずにいました。そして最近ではわたしが父と2人きりで会う機会も奪われ、父との謁見には必ず兄が同伴するように…………」
フェリシアはうつむいて続ける。
「兄の息のかかっている兵士がわたしの動向に目を光らせていますし、城の内部にわたしが心を許せる者はもういません。だからこそ」
フェリシアはディアスを見上げて。
「貴方の訪れはわたしにとって最後のチャンスです。兄の話を盗み聞きしました。貴方は白の勇者の称号を持つ冒険者の筆頭。先ほどの城門前での交戦を拝見しましたが、混戦に持ち込めば有利になる状況でそれをしませんでした。人命への配慮だったのでしょう。貴方は魔人に堕ちてもその心はまだ人のもの。そう思ったからわたしは貴方の協力を得るためにあとを追ってまいりました」
アムドゥスはフェリシアを睨むと、ディアスへと視線を移して。
「ケケケ、どうする? ブラザー」
「…………具体的な手引きの内容は?」
ディアスがフェリシアに訊いた。
「これを」
フェリシアは手にしていた布を示して。
「この布の力は先ほどお見せした通り。周囲の景色に溶け込む魔物の皮を使った隠蔽の衣。これを用いれば衛兵に気付かれる事なく潜入ができます。侵入経路もわたしにお任せください。陽動の話をされてましたが、それもわたしの方でなんとかできます。……もちろん、わたしに手を貸していただければですが」
ディアスは少し間を置くと首を左右に振って。
「…………だが俺の仲間が城に囚われている。あまり悠長にはしてられない。すぐにでも救出に向かいたいのが本音だ」
「城に、ですか?」
フェリシアは少し思案するとうなずいた。
ディアスに決意の眼差しを向けて。
「そちらもわたしに任せていただけますか? 城内ならあてがあります」
「仲間の逃亡を先にさせてもらえれば、俺は潜伏して魔人の討伐の完遂させてもいい。もちろん、状況次第になるが」
「わかりました」
フェリシアは頭を深々と下げて。
「お願いします!」
ディアスはアムドゥスを伴い、フェリシアと共に再び城壁へと向かう。
レオンハルトはベッドに横たわっていた。
診療所の奥の部屋からさらに地下へと伸びる階段の先。
無機質な部屋には魔物の身体がいくつも並び、時折不気味に蠢いている。
レオンハルトは天井を静かに見上げていて。
だが突然体を起こし、右腕を押さえた。
黒く染まった右腕に赤い筋が深く走って。
右腕が、それを押さえる左手を払い退けた。
「くそ!」
舌打ちと共に悪態を漏らすレオンハルト。
その腕が大きく跳ね上がるとレオンハルトの首筋を鷲掴みにした。
レオンハルトは左腕を異形化させて。
強靭な趾で自身の右腕を握り締める。
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