#4 不死身の魔人

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「ケケケ、嘘つけ」  アムドゥスはレディを見据えながら言った。 その額の瞳には7色の光が走っている。 「お前さんと会うのは初めてだろうが」  アムドゥスの言葉を受け、レディはその表情を曇らせて。 「貴方、魔物を連れているのね。……でもなんのことかしら。そちらの白いマントの方とは1度お会いしていますわ」 「お前さんが一方的に知ってるだけだろ。ケケケケケ」  アムドゥスはディアスに視線を移して。 「からくりが読めたぜ、ブラザー。だが厄介だ。あいつを殺してもあいつは死なねぇ」 「どういう意味だ?」  ディアスがアムドゥスに()いた。  だがアムドゥスが答えるよりも早く。 レディはハサミを構えながら、ディアス目掛けて駆け出す。  ディアスは両手の剣を構えた。 それと同時に巨大なハサミで襲いかかるレディ。 ディアスはレディの振るう刃を受け止めて。 左右からその身体を挟み込むように迫るハサミの刃を、ディアスは剣で押し(とど)める。  レディは腕に力を込めて。 ディアスの剣を徐々に押していき、その手に握る凶刃がディアスの腕に触れた。 触れるだけでその腕には一筋の傷が走り、血が流れる。  流れ出た血がレディの握る巨大なハサミの刃へと伝った。  ディアスは突然、剣を引いた。 なんとか押し(とど)めていた刃がディアスへと迫る。  その刹那(せつな)。 ディアスは手首を返し、剣の切っ先を下に向けた。 すかさず交差させた刃を振り上げて。 「『その刃、(ソード・)熾烈なる旋風の如く(ヴォルテクス)』」  剣の操作による加速を付与した斬擊がレディのハサミを弾き返す。  レディは咄嗟(とつさ)に後ろへと跳んで距離をとって。  だがディアスは振り上げた刃をレディ目掛けて投げ放った。 「『その刃、(ソード)突風とならん(・ガスト)』」  光を(まと)って加速する剣。 その刃はレディの眼前へと迫る。  視界いっぱいに迫るディアスの剣。 レディはその剣をハサミを()いで弾いた。 だが剣を払いのけた先に。 さらに自身へと振り下ろされる刃を捉えて。  『その刃、(ソード)突風とならん(・ガスト)』を放つと共にレディへと肉薄していたディアス。 ディアスはレディ目掛けて渾身(こんしん)の力で剣を振り下ろす。  レディは後ろに下がりながら身をよじるが、ディアスの剣はその身体を捉えた。 レディは右腕を根本から斬り落とされて。 レディはその痛みに、くぐもった(あえ)ぎ声を漏らす。  レディはハサミを振るってディアスの追撃を牽制(けんせい)すると、後ろに跳んだ。  レディの切れ長の目がキッとディアスを睨んで。 その手に握るハサミの柄の片側には、斬り落とされた腕がハサミを握ったままぶら下がっている。 「遠隔斬擊(ストーム系)と呼ばれる剣技でしたかしら。お目にかかったのは初めてですわ」  レディはハサミの切っ先を上に向けると、刃に滴る血を舐め取った。 「マイナー、マイナーと揶揄(やゆ)されるのはもう慣れている。……それよりいいのか?」  ディアスは刃に滴る血を見ながら言った。  ディアスの問いに、レディは意味が分からないと肩をすくめて。 だが次の瞬間、その顔が苦痛に歪んだ。 ()いでレディは(もだ)えながら吐血する。 「魔人が口にしても猛毒だって話だからな」  ディアスの声がすぐそこに迫っていて。 レディが顔を上げると、フードの下のディアスの赤い瞳と目が合った。 赤く燃える瞳が、その輝きとは対照的に冷たくレディを見下ろしている。 「貴方も魔人でしたのね……!」  レディは力を振り絞り、ハサミをディアス目掛けて突き出した。 だが目の前に無数の刃がそそり立つと、ハサミを握る手が切断される。  レディは刃の出所を追って下へと視線を向けた。 そこにはディアスから、地を這うように伸びた刃。 そしてその刃がレディの真下にまで潜り込んでいて。 「────」  レディが言葉を発するよりも速く。 刃の側面から無数の剣の切っ先が現れて。 貫かれるレディの身体。 その肢体がいくつもの肉片となって転がる。  その身体は灰となり、灰の中から魔結晶(アニマ)が顔を覗かせた。 ディアスはその魔結晶(アニマ)を手に取ると呟く。 「……小さいな」  小指の爪くらいしかない小さな魔結晶(アニマ)。 今までディアスが目にしてきた魔結晶(アニマ)は小さくても握り拳大、大きいもので手のひらサイズにもなる。 それと比較してレディの核となっていた魔結晶(アニマ)はあまりに小さく、そして形も(いびつ)だった。 「ケケケ、核としての最低限の機能しかまだない未熟な魔結晶(アニマ)みてぇだな」  アムドゥスがレディの魔結晶(アニマ)を見て言った。 「だが気をつけろよ、ブラザー。お前さんの使う剣技もお前さんが魔人だってのもバレちまった。次は今みたいに簡単にはいかないかもしれないぜぇ?」 「いくら殺しても死なないってやつか」 「ケケケ。噂をすれば、だ」  アムドゥスが目で示した先へとディアスは視線を向けて。 その先から銀色の閃きがディアス目掛けて(おど)った。
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