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「ケケケ、嘘つけ」
アムドゥスはレディを見据えながら言った。
その額の瞳には7色の光が走っている。
「お前さんと会うのは初めてだろうが」
アムドゥスの言葉を受け、レディはその表情を曇らせて。
「貴方、魔物を連れているのね。……でもなんのことかしら。そちらの白いマントの方とは1度お会いしていますわ」
「お前さんが一方的に知ってるだけだろ。ケケケケケ」
アムドゥスはディアスに視線を移して。
「からくりが読めたぜ、ブラザー。だが厄介だ。あいつを殺してもあいつは死なねぇ」
「どういう意味だ?」
ディアスがアムドゥスに訊いた。
だがアムドゥスが答えるよりも早く。
レディはハサミを構えながら、ディアス目掛けて駆け出す。
ディアスは両手の剣を構えた。
それと同時に巨大なハサミで襲いかかるレディ。
ディアスはレディの振るう刃を受け止めて。
左右からその身体を挟み込むように迫るハサミの刃を、ディアスは剣で押し止める。
レディは腕に力を込めて。
ディアスの剣を徐々に押していき、その手に握る凶刃がディアスの腕に触れた。
触れるだけでその腕には一筋の傷が走り、血が流れる。
流れ出た血がレディの握る巨大なハサミの刃へと伝った。
ディアスは突然、剣を引いた。
なんとか押し止めていた刃がディアスへと迫る。
その刹那。
ディアスは手首を返し、剣の切っ先を下に向けた。
すかさず交差させた刃を振り上げて。
「『その刃、熾烈なる旋風の如く』」
剣の操作による加速を付与した斬擊がレディのハサミを弾き返す。
レディは咄嗟に後ろへと跳んで距離をとって。
だがディアスは振り上げた刃をレディ目掛けて投げ放った。
「『その刃、突風とならん』」
光を纏って加速する剣。
その刃はレディの眼前へと迫る。
視界いっぱいに迫るディアスの剣。
レディはその剣をハサミを薙いで弾いた。
だが剣を払いのけた先に。
さらに自身へと振り下ろされる刃を捉えて。
『その刃、突風とならん』を放つと共にレディへと肉薄していたディアス。
ディアスはレディ目掛けて渾身の力で剣を振り下ろす。
レディは後ろに下がりながら身をよじるが、ディアスの剣はその身体を捉えた。
レディは右腕を根本から斬り落とされて。
レディはその痛みに、くぐもった喘ぎ声を漏らす。
レディはハサミを振るってディアスの追撃を牽制すると、後ろに跳んだ。
レディの切れ長の目がキッとディアスを睨んで。
その手に握るハサミの柄の片側には、斬り落とされた腕がハサミを握ったままぶら下がっている。
「遠隔斬擊と呼ばれる剣技でしたかしら。お目にかかったのは初めてですわ」
レディはハサミの切っ先を上に向けると、刃に滴る血を舐め取った。
「マイナー、マイナーと揶揄されるのはもう慣れている。……それよりいいのか?」
ディアスは刃に滴る血を見ながら言った。
ディアスの問いに、レディは意味が分からないと肩をすくめて。
だが次の瞬間、その顔が苦痛に歪んだ。
次いでレディは悶えながら吐血する。
「魔人が口にしても猛毒だって話だからな」
ディアスの声がすぐそこに迫っていて。
レディが顔を上げると、フードの下のディアスの赤い瞳と目が合った。
赤く燃える瞳が、その輝きとは対照的に冷たくレディを見下ろしている。
「貴方も魔人でしたのね……!」
レディは力を振り絞り、ハサミをディアス目掛けて突き出した。
だが目の前に無数の刃がそそり立つと、ハサミを握る手が切断される。
レディは刃の出所を追って下へと視線を向けた。
そこにはディアスから、地を這うように伸びた刃。
そしてその刃がレディの真下にまで潜り込んでいて。
「────」
レディが言葉を発するよりも速く。
刃の側面から無数の剣の切っ先が現れて。
貫かれるレディの身体。
その肢体がいくつもの肉片となって転がる。
その身体は灰となり、灰の中から魔結晶が顔を覗かせた。
ディアスはその魔結晶を手に取ると呟く。
「……小さいな」
小指の爪くらいしかない小さな魔結晶。
今までディアスが目にしてきた魔結晶は小さくても握り拳大、大きいもので手のひらサイズにもなる。
それと比較してレディの核となっていた魔結晶はあまりに小さく、そして形も歪だった。
「ケケケ、核としての最低限の機能しかまだない未熟な魔結晶みてぇだな」
アムドゥスがレディの魔結晶を見て言った。
「だが気をつけろよ、ブラザー。お前さんの使う剣技もお前さんが魔人だってのもバレちまった。次は今みたいに簡単にはいかないかもしれないぜぇ?」
「いくら殺しても死なないってやつか」
「ケケケ。噂をすれば、だ」
アムドゥスが目で示した先へとディアスは視線を向けて。
その先から銀色の閃きがディアス目掛けて躍った。
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