196人が本棚に入れています
本棚に追加
衛兵達は一斉に敬礼すると道を開けた。
次いで轟音を上げながら城門が開いていく。
「助かった!」
「王女殿下万歳!」
住民達は橋へとなだれ込み、開け放たれた城の入り口へと駆け込む。
フェリシアは隠蔽の衣を纏って姿を隠すと、住民達の流れに紛れて城へと入った。
「これは何事だ」
重武装の兵士が城内へと押し寄せる住民を見て言った。
衛兵の1人がその兵士に近づいて。
「フェリシア王女殿下の命により、保護を求めて避難してきた住民の受け入れをしております」
「王女殿下が? 見張りは何をしていたんだ」
兵士は踵を返すと、足早に廊下へと進んで。
兵士は城の中を進み、第1王子のもとへ。
第1王子はきらびやかな鎧を身に纏い、広間の中央に佇んでいた。
その目の前には巨大な白い檻が設置され、その周囲を重武装した兵士が取り囲んでいる。
「王子殿下、ご報告が!」
兵士は敬礼と共に第1王子に言った。
第1王子は目の前の白い檻から兵士へと視線を向けて。
「話せ」
「ハッ! ただいま王女殿下の命により、保護を求めた住民が城内へとなだれ込んできております」
「……フフッ。フェリシアめ、勝手な真似を」
王子は乾いた笑いと共に呟く。
「すぐにでも追い返す事もできますが、いかがなさいますか」
「いや、放っておけ」
「よろしいので?」
「入れてしまったものは仕方あるまい。ここで追い出せば民からの心象はさらに悪くなる。国の未来よりも目先の事しか見えていない愚者どもだ。フェリシアは民を受け入れ、我らは民を見捨てたなどと話になればまた決着のついた話をいくつも蒸し返して面倒を起こしかねない」
第1王子は目の前にある檻へと視線を戻して。
「今はこちらに集中したい。住民は反対側の広間と倉庫に誘導しろ。魔人が紛れ込んでいるかも知れない。顔を隠すものは即刻引っ捕らえて確認するんだ」
「ハッ!」
「これより魔人についての報告以外は不要だ。現場の判断に委ねる」
「ハッ! かしこまりました、王子殿下」
兵士は敬礼すると来た道を戻り、廊下の先へと消える。
「…………」
フェリシアは忍び足でそろりそろりと歩を進めていた。
第1王子への報告に来た兵士のあとを追ってここにたどり着いたフェリシア。
フェリシアは巨大な檻の前に来ると、その中を覗き込む。
そこには少女と少年、老人が横たわっていて。
あどけなさの残る白いざんばら髪の少女と一見少女のようにも見える黒髪の少年を見て、フェリシアは2人がディアスの仲間だと確信する。
だかフェリシアはきょろきょろと周囲を見回して。
檻の周囲は重武装した兵士。
檻の扉には頑丈そうな南京錠。
中の3人は気を失っているのか身動ぎ1つしない。
フェリシアは腰に下げた細剣の柄を握った。
だが首をふるふると振って、柄から手を放す。
「…………うぅ」
思わず唸ってしまって。
フェリシアは慌てて口を押さえるが、その声には誰も気付かなかったようだ。
兵士達にも、第1王子にも動きはない。
フェリシアはほっと胸を撫で下ろすと、足音を殺しながら廊下へと向かった。
兵士と兵士の間を屈みながらすり抜け、廊下に出ると駆け足でその場を離れる。
「うわー、緊張した」
廊下の隅でフェリシアが呟いた。
隠蔽の衣から顔を出すと、大きく息をつく。
その時、廊下の先から足音が聞こえた。
フェリシアが慌てて隠蔽の衣に身を隠すと、その先からは王子が兵士を数名連れてフェリシアの方向に向かってくる。
王子が1歩踏み出す度にきらびやかな鎧がガシャガシャと音を立てる。
「……あの女から連絡は?」
王子は後ろを振り返らずに、背後の兵士に訊いた。
「いえ、今のところ連絡はありません」
恐る恐る答える兵士。
王子はその答えを聞くと顔をしかめた。
「街からの被害報告も次々と増えています」
別な兵士が言うと、王子はさらに顔を険しくして。
「ハハッ、あの女め。よもや裏切る気ではあるまいな。……親父は今どこに?」
「国王陛下は玉座の間です」
兵士が答えた。
「この混乱だ。あの女を待つまでもない。いや、むしろそれが狙いか?」
王子は腰に差した剣の柄に手を置いた。
次いで、にやりと笑う。
「俺が直接、親父を討つ。そして俺がこの国の支配者となるのだ」
王子は連れている兵士達の方を振り返って。
「他の兄弟達も位置を捕捉しろ。王家の血族は俺1人でいい。必ず息の根を止めるんだ」
「恐れながら王子────」
「返事はどうした」
進言しようとする兵士の声を遮って。
王子は鋭い視線で兵士を睨んだ。
「俺の命に逆らうのか?」
「……ハッ! かしこまりました」
衛兵が敬礼する。
「わわわ」
フェリシアは息を潜めながら王子と兵士のやり取りを聞いていた。
口許を手で覆い、その目は驚きに見開かれていて。
フェリシアは慌てて玉座の間へと向かって駆け出す。
「…………何の音だ?」
王子が呟いた。
王子の耳にはフェリシアが走る足音が聞こえていて。
「足音か」
王子は兵士へと目配せした。
兵士は敬礼するとその足音を追う。
最初のコメントを投稿しよう!