#4 不死身の魔人

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「いくら殺しても死なないはずだ。お前を1人殺したところで、他にお前が無数にいるんじゃな」  レオンハルトが言った。 「ふふふ、観念なさいました?」  レディの1人が巨大なハサミを構える。  レオンハルトは背負っていた大剣を左手で抜いた。 レディを青い瞳で睨む。 「いいや。タネが分かればあとは簡単だ。お前ら全員殺して(しま)いにしてやる」  レオンハルトが言うと周囲からシャキンと刃が擦れる音が次々と響いて。 「全員殺して?」 「(わたくし)を全て?」 「(わたくし)を1人(ほふ)るのにもあれだけ苦戦してらしたのに」 「これだけの数の(わたくし)を相手にできると」 「本気でお思いでして?」 「その右腕は脅威ですが」 「(わたくし)に物量で()がありますわ」  レディ達はにやりと笑うとハサミを構える。  レオンハルトはおもむろに大剣を構えた。 彼の背中から伸びる、黒い鱗に覆われた長い尾がひゅんひゅんとしなって。 右腕の竜の首が唸り声をあげ、毒牙から滴る毒液が床に落ちる度に赤紫色の煙を上げる。 「お前に苦戦したのは1人で戦った時だろ」  レオンハルトはフェリシアを横目見て。 「今の俺には可愛いお姫様がついてる」 「ふふん、わたしの応援があれば百人力ですね。頑張ってください、黒の勇者様」 「いや、バフくれよ」 「わ、わたしの応援ではもう昔みたいに頑張れませんか……」 「そうは言ってないだろ」 「じゃ、わたしの事も応援してください」  フェリシアがレオンハルトを見上げる。  レオンハルトはフェリシアの顔を見つめると、昔のようにその頭を撫でようとして。  だがフェリシアはその手が迫ると短い悲鳴と共に飛び退()いた。 半眼で自身の頭に迫ったものを見て。 「そんなものでわたしの頭を撫でないでください!」  フェリシアの目の前で竜の首が、その目元を覆う白の鱗をビカビカと発光させている。 「…………もういいです」 「すまん」 「いいですよ。いつものことですから」  フェリシアは細剣を構えて。 「それでは戦闘はお任せします」 「ああ、任せろ」  レオンハルトがうなずいた。 「あら、お話は終わったのかしら」 「いいの?」 「これが、言葉を交わす最後の機会よ」  レディはそう言うと一斉にレオンハルトとフェリシアに向かって躍りかかった。 「フェリシア、プランB!」 「…………え、あれ、それどっち?!」 「アトラクト……!」  レオンハルトは大剣を振りかぶりながら叫んだ。 「スペルアーツ『吸引魔象(アトラクト)』!」  フェリシアはレオンハルトが言うとすかさずスペルアーツを発動した。  レオンハルトの先に現れたのは中心へ向かって渦巻く風の球。 レディ達はその風に引き寄せられて。  レオンハルトは跳躍。 『吸引魔象(アトラクト)』の渦目掛けて振りかぶった大剣を振り下ろす。 「スペルアーツ『筋力強化(ストレングス)』、『武装研磨(パリッシュ)』!」  その間際にフェリシアはレオンハルトにバフを付加。 その斬擊の威力を高めた。 その一閃は数人のレディをまとめて()ぎ払い、周囲のレディもまとめて吹き飛ばす。  剣を振り抜いたレオンハルトに向けて跳躍するレディ。 それと同時にフェリシアにも無数の銀の閃きが迫る。 「プランE! スペルアーツ────」  フェリシアは叫ぶと同時にスペルアーツを構えた。  レオンハルトは迫り来るレディ達を青の双眸(そうぼう)で睨んで。 だがすかさず彼女達に背を向けた。  無防備な背中目掛けて迫る凶刃。 「『防御魔象(バリア)』!」  その時、レオンハルトの背後に展開される魔力で編み上げられた半球場の盾。 その盾に向かってレディの振るう刃がぶつかる。 1撃。 2擊。 3擊────。 攻撃を受ける度に瞬く間に展開された盾に亀裂が入って。 そして大きく開かれた巨大なハサミの刃がそのバリアを断ち斬った。 「スペルアーツ────」  再度スペルアーツを唱えるフェリシア。 その刹那(せつな)にレオンハルトもスペルアーツを唱える。 「スペルアーツ『魔象強化(オーバーラップ)』」 「『爆発魔象(イクスプロード)』!」  レオンハルトのバフを得て強化されたフェリシアのスペルアーツが炸裂した。 レオンハルトに追いすがるレディ達の中心で閃光と共に爆発が起きる。  その爆風を背にレオンハルトは跳躍。 体をよじり、背中から伸びる尾を振り下ろした。 フェリシアへと間近に迫ったレディを叩き付ける。  レオンハルトはフェリシアの前へと着地した。 着地と同時に叩きつけた尾を横()ぎに払う。  その尾を潜り抜けたレディ。 だがその頭上から鋭い歯牙が迫って。 竜の(あぎと)がレディの上半身を喰いちぎった。 残された下肢が膝から崩れ落ちると、灰へと変わる。
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