#1 最小展開域のダンジョンマスター (表紙あり)

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「難度測定を誤魔化す魔人てのは今までにもいた。作戦書の中の観測隊の報告を読んで、2人以上の魔人が絡んでいるんじゃないかとは思ってたんだ」  ディアスが言った。 「ケケ、さすがは元勇者サマだなぁ」  ディアスのフードの陰で素直に称賛するアムドゥス。 ディアスはアムドゥスを横目見ると続ける。 「だが今まで見てきた魔人と比べてもよく考えられた連携だ。地下に魔宮を展開して上を別な魔宮で蓋をする。これならお互いのダンジョンの侵食域(しんしょくいき)がぶつかって干渉したりしないで済む」  ディアスはじりじりと移動しながら魔人2人の隙をうかがっていた。 目深(まぶか)に被ったフードの陰から相手の挙動1つ1つをつぶさに観察する。 「……知らん! 魔宮が展開できないなど知ったことか! 戦え、あいつらを殺せ!!」  キールは叫びながら再び魔人の少女の手を乱暴に引いた。 その顔が醜悪(しゅうあく)に歪んで。 「……いいのか? 私がここで死ねばお前の家族や村人は皆殺しだぞ?」  キールの言葉に魔人の少女がピクリと反応した。 怯えた顔でキールを見つめる。  キールは魔人の少女に顔を近づけ、囁くように言う。 「忘れるなよ。大罪である魔人堕(まじんお)ちを許した村は本来全員処刑される決まりだ。それをお前が私に協力することを条件に見逃してやってるんだ。私の恩情に感謝する心があるなら、戦え」  魔人の少女は生唾(なまつば)を飲むと、2人の魔人の方を振り向いた。 「そうだ戦え。家族を救えるのはお前だけなんだぞ、エミリア……?」  キールが魔人の少女の名前を口にした。  魔人の少女──エミリアはキールに向き直る。 「戦います。私は戦います! ……でも、今の私1人の力じゃ勝てません。キール様、何とぞお力添えを。他の冒険者の方々にも助力を(たまわ)りたく……」  深く頭を下げてキールに懇願(こんがん)するエミリア。 キールは舌打ちを漏らしたが、少し思案するとうなずいた。 「……よかろう」  キールは周囲の冒険者達を見回して声を張り上げる。 「陣形を立て直せ! 魔人の生死は問わん。これより魔宮攻略を再開する!」  キールが腰の剣を抜き、高々と振りかざした。 「(おく)するな! 戦え!」  キールの呼び掛けに冒険者は首を左右に振った。 「無茶だ。あんなの束になったって敵うわけねぇ」 「おとなしくEとかFの任務だけ引き受けてりゃよかったんだ」 「私達、もうおしまいよ。苦しんで殺されるくらいならいっそ死んだ方がまし」 「あんたが任せておけって言うから来たんだ! それなのに、こんな……」  冒険者達はすでに戦いを諦めていた。 そのほとんどが武器も構えず、呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしている。 「腑抜(ふぬ)け共が」  キールは吐き捨てるように言った。 「なぁ、見逃してくれよ。見逃してくれるなら俺はなんでもするぜ?」  ついには冒険者の1人が命乞いを始めた。 「俺もだ」 「頼むよ、魔人さん」  つられて他の冒険者達も魔人に命乞いする。 「あ、すみません。そういうのいらないです」  だが魔人の少年は柔らかな笑みとは反対に、冒険者の懇願(こんがん)をはね()けた。 笑みを浮かべたまま無慈悲(むじひ)に告げる。 「────死んでください」  その言葉と共に頭上から響くけたたましい笑い声。 天井からぶら下がる巨大なスケルトンが腕を伸ばし、冒険者達を()ぎ払った。 吹き飛ばされた冒険者達は無機質な壁に叩きつけられ、白い壁面に鮮血を咲かせる。 「戦え! このままでは魔人共になぶり殺されるだけだぞ!」  キールは叫びながら眼前に迫った腕を飛び越えると、すれ違い様に腕を斬りつけた。 だがその刃はスケルトンの腕に弾かれる。 「くっ、硬度が比べ物にならん……!」  キールが舌打ちと共に言った。 着地すると魔人に向かって駆け出して。 「ボスが倒せないなら魔人をやるまでだ。全員ボスに構うな、魔人を狙え!」  キールの言葉と共にボウガンや弓から矢が一斉に放たれる。 「俺はこういうの苦手だから任せたわ」  魔人の男はそう言って肩をすくめた。 後ろに下がる男に対して、魔人の少年が前に出る。 「僕もお兄さんには初めから期待してないので、流れ矢にだけ注意しといてください」  魔人の少年は迫り来る矢を捉えると、それらを全て素手で掴んだ。 「ば、化けもんかよ……!」  ボウガンを構えた冒険者が言った。 「お返ししますよ」  魔人の少年は笑顔と共に言って。 矢を放ってきた冒険者達に向けてその矢を投げ返した。 鋭い風切りと共に矢の切っ先が冒険者に迫る。 ディアスは今も攻撃を続けるスケルトンの腕の下を潜り抜けると、剣を次々と抜き放った。 「『その刃、疾風とならん(ソード・ガスト)』!」  放たれた剣は閃光を(まと)って加速。 冒険者に迫る矢を次々と撃ち落とす。 「これでこの前のボウガンの件はチャラにしてくれ」  ディアスは背後のボウガン使いに言うと、魔人の2人目掛けて跳躍(ちょうやく)。 残していた2本の剣を構え、その魔力を解放する。 「ソードアーツ『穿て、流れ落ちる楔(メテオ・スパイク)』……!」
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