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「難度測定を誤魔化す魔人てのは今までにもいた。作戦書の中の観測隊の報告を読んで、2人以上の魔人が絡んでいるんじゃないかとは思ってたんだ」
ディアスが言った。
「ケケ、さすがは元勇者サマだなぁ」
ディアスのフードの陰で素直に称賛するアムドゥス。
ディアスはアムドゥスを横目見ると続ける。
「だが今まで見てきた魔人と比べてもよく考えられた連携だ。地下に魔宮を展開して上を別な魔宮で蓋をする。これならお互いのダンジョンの侵食域がぶつかって干渉したりしないで済む」
ディアスはじりじりと移動しながら魔人2人の隙をうかがっていた。
目深に被ったフードの陰から相手の挙動1つ1つをつぶさに観察する。
「……知らん! 魔宮が展開できないなど知ったことか! 戦え、あいつらを殺せ!!」
キールは叫びながら再び魔人の少女の手を乱暴に引いた。
その顔が醜悪に歪んで。
「……いいのか? 私がここで死ねばお前の家族や村人は皆殺しだぞ?」
キールの言葉に魔人の少女がピクリと反応した。
怯えた顔でキールを見つめる。
キールは魔人の少女に顔を近づけ、囁くように言う。
「忘れるなよ。大罪である魔人堕ちを許した村は本来全員処刑される決まりだ。それをお前が私に協力することを条件に見逃してやってるんだ。私の恩情に感謝する心があるなら、戦え」
魔人の少女は生唾を飲むと、2人の魔人の方を振り向いた。
「そうだ戦え。家族を救えるのはお前だけなんだぞ、エミリア……?」
キールが魔人の少女の名前を口にした。
魔人の少女──エミリアはキールに向き直る。
「戦います。私は戦います! ……でも、今の私1人の力じゃ勝てません。キール様、何とぞお力添えを。他の冒険者の方々にも助力を賜りたく……」
深く頭を下げてキールに懇願するエミリア。
キールは舌打ちを漏らしたが、少し思案するとうなずいた。
「……よかろう」
キールは周囲の冒険者達を見回して声を張り上げる。
「陣形を立て直せ! 魔人の生死は問わん。これより魔宮攻略を再開する!」
キールが腰の剣を抜き、高々と振りかざした。
「臆するな! 戦え!」
キールの呼び掛けに冒険者は首を左右に振った。
「無茶だ。あんなの束になったって敵うわけねぇ」
「おとなしくEとかFの任務だけ引き受けてりゃよかったんだ」
「私達、もうおしまいよ。苦しんで殺されるくらいならいっそ死んだ方がまし」
「あんたが任せておけって言うから来たんだ! それなのに、こんな……」
冒険者達はすでに戦いを諦めていた。
そのほとんどが武器も構えず、呆然と立ち尽くしている。
「腑抜け共が」
キールは吐き捨てるように言った。
「なぁ、見逃してくれよ。見逃してくれるなら俺はなんでもするぜ?」
ついには冒険者の1人が命乞いを始めた。
「俺もだ」
「頼むよ、魔人さん」
つられて他の冒険者達も魔人に命乞いする。
「あ、すみません。そういうのいらないです」
だが魔人の少年は柔らかな笑みとは反対に、冒険者の懇願をはね除けた。
笑みを浮かべたまま無慈悲に告げる。
「────死んでください」
その言葉と共に頭上から響くけたたましい笑い声。
天井からぶら下がる巨大なスケルトンが腕を伸ばし、冒険者達を薙ぎ払った。
吹き飛ばされた冒険者達は無機質な壁に叩きつけられ、白い壁面に鮮血を咲かせる。
「戦え! このままでは魔人共になぶり殺されるだけだぞ!」
キールは叫びながら眼前に迫った腕を飛び越えると、すれ違い様に腕を斬りつけた。
だがその刃はスケルトンの腕に弾かれる。
「くっ、硬度が比べ物にならん……!」
キールが舌打ちと共に言った。
着地すると魔人に向かって駆け出して。
「ボスが倒せないなら魔人をやるまでだ。全員ボスに構うな、魔人を狙え!」
キールの言葉と共にボウガンや弓から矢が一斉に放たれる。
「俺はこういうの苦手だから任せたわ」
魔人の男はそう言って肩をすくめた。
後ろに下がる男に対して、魔人の少年が前に出る。
「僕もお兄さんには初めから期待してないので、流れ矢にだけ注意しといてください」
魔人の少年は迫り来る矢を捉えると、それらを全て素手で掴んだ。
「ば、化けもんかよ……!」
ボウガンを構えた冒険者が言った。
「お返ししますよ」
魔人の少年は笑顔と共に言って。
矢を放ってきた冒険者達に向けてその矢を投げ返した。
鋭い風切りと共に矢の切っ先が冒険者に迫る。
ディアスは今も攻撃を続けるスケルトンの腕の下を潜り抜けると、剣を次々と抜き放った。
「『その刃、疾風とならん』!」
放たれた剣は閃光を纏って加速。
冒険者に迫る矢を次々と撃ち落とす。
「これでこの前のボウガンの件はチャラにしてくれ」
ディアスは背後のボウガン使いに言うと、魔人の2人目掛けて跳躍。
残していた2本の剣を構え、その魔力を解放する。
「ソードアーツ『穿て、流れ落ちる楔』……!」
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