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「でもあたしの魔宮の魔物はボスしかいない。だからボス部屋の生成ができないと魔物の召喚もできないし、あたしの力も弱いまま。魔宮が展開できないあたしにはどうすることもできないの」
エミリアが弱々しい声で言った。
「ケケケ、決めつけんなよ」
アムドゥスは羽ばたくとエミリアの肩に止まって。
「できないじゃねぇ。どうすりゃできるか考えるんだよ。確かにこの侵食耐性をバカみたいにあげた魔宮じゃ嬢ちゃんは魔宮を展開できない。でも、この空間全てがそうってわけじゃねぇよなぁ」
そう言ってアムドゥスが見上げた先には異形のスケルトンと、その上体がぶら下がる天井があった。
「天井は骸骨野郎の魔宮だ。嬢ちゃんの魔宮ならさっきやったみたいに上書きして展開ができる」
「そっか! でも、どうやってあそこまで行くの?」
「ケケ、そりゃあ…………」
アムドゥスは天井を見上げたまま言葉を止める。
「カラスさん?」
アムドゥスはエミリアに振り向いた。
目をぱちくりとさせる。
「────それは、俺らに手伝わせてくれねぇか」
エミリアとアムドゥスの背後から声がして。
振り向いた先には分厚い鎧を着込んだ屈強な冒険者の姿があった。
その後ろにさらに2人の冒険者が立っている。
「話は聞かせてもらった。俺達で良ければ手を貸すよ。君には酒場で矢を射かけた事を謝りたい。そして今も戦ってくれてる彼にはさっき助けられた。彼は今も他の冒険者を助けるために戦ってくれている。その力になりたいんだ」
ボウガン使いの冒険者が言った。
「ほんとは加勢してあげられたらよかったのだけれど。でも私達の今の実力じゃ足手まといにしかならないのよね。くやしいわ」
ボウガン使いの隣で、長い三つ編みの冒険者が下唇を噛んだ。
「ありがとう、お兄さん達。あとオネェさん!」
「いいのよー」
三つ編みの冒険者は頬に手を添えながら答えた。
エミリアにウィンクを返す。
「んじゃ、始めようか」
鎧の冒険者が言うと、2人の冒険者がうなづいた。
「ちょっと乱暴になっちゃうのは許してね」
三つ編みの冒険者がエミリアの足首をがっしりと掴んだ。
胸元の大きく空いたドレスを身につけたその冒険者は、持っていた杖を鎧の冒険者に手渡した。
次いで天井に視線を向け、投擲の構えをとる。
「じゃ、いくわよ」
「え、あ……うん!」
エミリアがうなずいた。
「ケケ! マジか!」
アムドゥスはエミリアの肩から離れる。
三つ編みの冒険者の胸がビキビキと血管を浮かび上がらせながら膨張した。
そこに現れるのはセクシーさの欠片もない深い谷間。
自称ダイナマイトバストの強張りが最高潮に達して。
「『美麗な私の魔物砕き』改め『美麗な私の大投球』!!」
三つ編みの冒険者はエミリアを投げ飛ばす。
ボウガン使いは鎧の冒険者から借りた剣をボウガンにつがえると、エミリアが投げ飛ばされるのと同時にそれを放った。
放たれた剣が天井に深々と突き刺さる。
エミリアは空中で身をひるがえすと天井に着地。
突き刺さった剣の柄を掴むと姿勢を固定した。
異形のスケルトンを睨むと、その力を解放する。
「顕現して、あたしの『在りし日の咆哮』……!」
エミリアを中心にダンジョンの一部が上書きされて。
展開された石畳に映る少女の影が瞬く間にその姿を変えた。
現れた魔物は戦斧を振り下ろし、天井を構成しているダンジョンを打ち砕く。
「天井まで飛んで僕の魔宮を上書きした……?!」
スケルトンの中から魔人の少年の声。
異形のスケルトンの巨体が天井と共に落下し、白い無機質な床に叩きつけられた。
「さぁ、こっからが見ものだぜぇ?」
アムドゥスはケケケと笑い声をあげた。
異形のスケルトンの目の前には血まみれのディアスがたたずんでいた。
その目の赤い輝きが焔のように燃え上がる。
異形のスケルトンはディアスに顔を向けた。
「無駄ですよ。砕かれてもここはまだ僕のダンジョンの中。そしてお兄さんの魔宮封じの中でもある。状況は何も変わってない」
魔人の少年がスケルトンの中から言った。
腰から上だけが召喚された異形のスケルトンは、8本の腕で身体を支えた。
八つん這いになったその姿は蜘蛛を思わせる。
「いいや、これで十分だ。一度攻撃の手が止まれば冒険者を庇わずに攻撃に専念できる」
ディアスはそう言って一歩前に踏み出した。
「俺の魔人の力、見せてやるよ」
「魔人の力? 魔宮が展開できないのにどうするんです。さっきの女の子みたいに上まで飛んでみますか!」
少年の声と共に異形のスケルトンが腕を振りかぶると、ディアス目掛けてすくい上げるように腕を薙ぐ。
目前にまで迫る巨大な白骨の手。
それを前にディアスはニヤリと笑みを浮かべて。
「────顕現しろ、俺の『千剣魔宮』」
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