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その刹那、周囲の冒険者、魔人分け隔てなく寒気立って。
ディアスは身をよじりながら跳躍した。
旋回しながら白骨の腕に肉薄すると、突如として無数の刃がディアスの身体から現れる。
それは暗く冷たい輝きを湛える鋼鉄の刀剣。
おびただしい量の剣が渦を描き、スケルトンの腕を触れた先から瞬く間に細切れにした。
「あれは剣の魔宮か!? なんで俺の『侵せぬ盾』の中で魔宮の力が使える…………?!」
異形のスケルトンの中から魔人の男が声をあげる。
「ケケ、これがディアスの能力よ」
飛翔するアムドゥス。
アムドゥスはディアスと異形のスケルトンの戦いを上から眺めていて。
「嬢ちゃんの魔宮が最小の展開域? ケケ! 違うなぁ。ディアスの魔宮は展開域1の嬢ちゃんの魔宮を下回る。魔人に挑む事を前提に構築されたその力は侵食域のせめぎ合いもなく、対象の侵食耐性にも左右されない。だが代わりに自身の強化も強力なボスも伴わない」
アムドゥスの見下ろす先で異形のスケルトンは攻撃の構えを見せた。
「手練れの冒険者の魔人堕ちだからこそ選択し得た展開域0の魔宮という暴挙。ギミックである刃の生成にのみ特化した展開しない魔宮。それが最小の展開域を持つダンジョンマスター、ディアスの『千剣魔宮』だ」
横薙ぎに。
振り下ろして。
わしづかみにしようと。
異形のスケルトンはディアスに向けてさらに3本の腕を振るった。
左から、上から、正面から。
ディアスはスケルトンの攻撃を捉えると床を強く踏んだ。
その下から床を這うように刃が伸びて。
伸びた刃の側面からはさらに剣の切っ先がそそり立ち、正面から迫る手と振り下ろされる腕を串刺しにする。
次いで左から迫る腕を横目見たディアス。
ディアスは纏う刀剣の中から1つの柄を握ると、腰を落とした。
踏み込みと同時に爪先を軸に旋回し、握った剣を振り上げる。
振り上げられた剣は無数の刀剣を連ね、長大な斬擊となってスケルトンの腕を斬り裂いた。
斬り飛ばされた腕が宙を舞う。
ディアスが振り上げた腕をおろすと、すでに無数の剣はその姿を消していた。
わずかな攻防の間に攻撃手段の腕の半数を失って。
異形のスケルトンはたじろぐと、思わず後ろに後退した。
「お兄さん」
魔人の少年が魔人の男に呼び掛ける。
「わりーな、役に立たなくて。任せたわ」
魔人の男が答えると、周囲に展開されていた白いダンジョンの壁面と床が消えた。
露になる岩肌。
その表面が異形のスケルトンを中心にその様相を再び変える。
展開された魔宮。
そしてその足元から、壁から、天井から。
至るところから無数の赤い骸骨の腕が突き出てきて。
「10秒でいい。任せられるか?」
ディアスはエミリアに視線を向けると訊ねた。
それにエミリアは大きくうなずく。
「『在りし日の咆哮』!」
エミリアが魔宮を展開するのと同時にディアスは駆け出した。
ディアスの背から無数の剣が現れ、尾のように連なる。
次々と現れる赤いスケルトンは無差別に周囲の攻撃を始めた。
「みんな! 一ヶ所に固まって!」
エミリアは周囲の冒険者に言った。
彼女の従える魔物は冒険者に迫るスケルトンを薙ぎ払う。
ディアスは赤いスケルトンの間をすり抜けるように走り抜けて。
すれ違い様に尾のように伸びた剣を鞭のようにしならせ、その身体を両断。
次々と周囲の敵を斬り伏せながら、瞬く間に異形のスケルトンの眼前に躍り出た。
「化け物め……!」
魔人の少年は叫びながら異形のスケルトンに力を集中させる。
倒されたスケルトンの骨がより集まり、瞬く間に異形のスケルトンの頭から胸にかけていくつもの歯牙を形作る。
鋭い骨の切っ先が立ち並ぶ赤く染まった巨大な口。
その口がディアスを呑み込んだ。
────5秒。
次の瞬間。
異形のスケルトンの身体を破り、巨大な刃がその身体を貫いた。
次いで無数の刃が閃くと、その上半身が粉々に吹き飛ぶ。
ディアスは生成した1本の剣を携え、2人の魔人の前に降り立った。
「最強の、魔人」
魔人の少年は羨望に満ちた眼差しをディアスに向けて呟く。
「最強? 俺の力はまだ俺が倒したい魔人の足元にも及ばないよ」
────10秒。
ディアスは少年の言葉に返すのと同時に剣を振るった。
1振りで2人の魔人の首をはねる。
ディアスはエミリアに告げた通り、10秒でこの戦いを終わらせて。
展開されていたダンジョンがかき消え、無数のスケルトンも塵と消える。
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