#1 最小展開域のダンジョンマスター (表紙あり)

13/15

199人が本棚に入れています
本棚に追加
/397ページ
 ダンジョンが展開されていた跡にはぽっかりと大穴が空いていた。 冒険者達は穴の底で周囲を見回し、次いで上を見上げて。 頭上に広がる星空の静けさが戦いの終わりを実感させる。 「…………終わった、のか?」 「やった! 倒したぞ!」 「助かった……!」 「早く手当てを!」 「負傷者はこっちに運べ!」  冒険者達はあわただしく動き始めた。 負傷者の救護と共に残留魔宮生成物(ざんりゅうまきゅうせいせいぶつ)の探索を始める。  ディアスは2人の魔人の亡骸が白く結晶化したのを確認すると、その胸に手を伸ばした。 ディアスが触れたところから砂のように崩れ、中から『魔結晶(アニマ)』が現れる。  ディアスは『魔結晶(アニマ)』を白い砂の中から拾い上げると、それを(ふところ)にしまった。 「────待て待て待て! 落ち着くんだ!!」  突如(とつじょ)として響いた必死な男の声。 ディアスが振り向いた先には体を引きずりながら後ずさるキールと、彼ににじり寄るエミリアの姿があった。 「ケケケ! ありゃ殺されたな!」  アムドゥスが(たの)しげに言いながらディアスの肩に降りてきた。  周囲の冒険者も2人に視線を向ける。 「貴方はあたしを騙した」  エミリアがキールに向かって一歩踏み出して。 「貴方のせいで友達や村の人が何人も死んだ」  エミリアがさらに一歩。 「貴方のせいであたしは────」  輝きを増すエミリアの瞳。 エミリアがさらに一歩を踏み出すと、そこから彼女の魔宮が展開されて。 「こんな化け物になった」  エミリアの影が瞬く間にその姿を変え、巨大な魔物が現れた。 牡牛(おうし)の頭を持った半人半獣の魔物。 その手に握られた戦斧(せんぷ)の刃が月明かりを受けてギラリと光る。 「悪かった。私が悪かった! 待遇を改善しよう。これからは狭い(おり)に収容はしない。個室を…………それも私が使うような特別待遇の豪華絢爛(ごうかけんらん)な部屋を与えるぞ。望むなら好きな物を買い与えてやる。どうだ? 悪くない話だろう……? お前は生まれながらの魔人じゃない。人としての心が残っているのなら、ここで私を殺すべきではないぞ」  キールが言葉を(つむ)ぐたびにエミリアの顔には嫌悪が浮かんでいった。 冷ややかな眼差(まなざ)しでキールを見下ろす。  その視線に耐えかねたキールはエミリアを睨み返して。 「…………ふざけるなよ。魔人風情(まじんふぜい)が! この私を! 見下ろしおって……!!」  キールは怒鳴り声をあげた。 「騙される方が悪いのだ! 利用される方が悪いのだ! むしろこの私の役に立てたことを誇るべきなのだ!」 「言いたい事は…………それだけ?」  エミリアは無感情に(たず)ねて。 だが赤く灯る瞳には激しい怒りが燃え盛っている。    エミリアの背後で魔物は戦斧(せんぷ)を振りかぶった。 「おい! 誰か私を助けろ! おい!」  キールは周囲の冒険者に助けを求めたが、冒険者達はその場から動かない。 「なぁ、あんた! 魔人のあんただ。あんたの力ならこの小娘を倒せるだろう? 待遇は保証する! 私を助けろ!」  キールはディアスに助けを()う。 「おっさんはああ言ってるが、どうするブラザー?」  ディアスは肩に止まったアムドゥスを横目見ると、無言のままキールとエミリアの2人に視線を戻した。  無言を解答として受け取って。 アムドゥスはケケケと笑い声をあげる。 「待ってくれ、私は死にたくない。私はまだ死ぬべき人間ではないのだ」  エミリアに向き直って命乞いをするキール。 だがエミリアは答えない。 「死にたく、ない!」  キールが悲痛な声をあげて。 その顔が死の恐怖に歪む。 「あたしは今も覚えてる。貴方のせいで死んだ皆もそう言って死んでった」  エミリアが言うと、彼女の背後で斧を振りかぶる魔物が咆哮(ほうこう)。 柄を強く握りしめ、魔物は戦斧(せんぷ)を振り下ろす。 「ぎゃぁぁぁああああ……!!」  響き渡る絶叫。  そして轟音と共に石畳が大きく陥没した。 「────でも、あたしは貴方を殺さない」  エミリアの視線の先にはスレスレで振り下ろされた分厚い戦斧(せんぷ)の刃と、恐怖のあまり気を失って泡を吹くキールの姿があった。 「貴方は弱者だ。狩られる側だ。貴方は一生、魔人の影に(おび)えながら地べたを()いずって生きればいい」  エミリアは展開していた魔宮を消した。 それと同時に従える魔物もその姿を消す。 「それがあたしの、貴方への復讐」  エミリアはそう告げてキールに背を向けた。 次いで周囲の視線に気づくと、視線から逃げるように走り出す。
/397ページ

最初のコメントを投稿しよう!

199人が本棚に入れています
本棚に追加