#1 最小展開域のダンジョンマスター (表紙あり)

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「カラスさん」  アムドゥスに気付いたエミリアが言った。 「んなとこで何してんだい」 「月を見てた、かな」  アムドゥスの問いにエミリアが答えた。 彼女が見上げていた先には蒼白く輝く月が浮かんでいる。 「あたし、蒼い月が一番好きなんだ」 「そうなのか」 「カラスさんはどの月が好き?」  エミリアがアムドゥスに()いた。 「俺様は特に好き嫌いはねぇが、俺の主様が黒い月が好きでな。黒い月の日は月見によく付き合わされたな。黒い月の夜は星が綺麗に見えるって言ってな」 「カラスさんの主ってあの魔人のお兄ちゃんのこと?」 「ケケケ、違う違う」  アムドゥスは首を左右に振った。 「あいつと俺様はいわばビジネスパートナーだ。利害関係だけの間柄よ」 「ふーん、じゃあ、カラスさんの本当の主ってどんな人なの?」  エミリアはしゃがみ込むと、アムドゥスと向かい合う。 「お前さんと同じぐらいの女の子だぜ? 同じぐらいってももう500年は生きてるが」  アムドゥスはケケケと笑った。 「魔人ってみんな長生きなのかな」 「さぁてな。少なくとも寿命で死んだ魔人の話は聞いたことがねぇが」 「そっか」  エミリアは小さく呟くとうつむく。 「ケケ、孤独が怖いのか?」  アムドゥスの問いにエミリアは静かにうなずいた。 「あたしのパパもママも、友達も村のみんなも死んじゃって、それであたしだけ取り残されると思うと怖い」 「なら、俺様達と来るか?」  アムドゥスからの提案にエミリアは目を丸くする。 「なんだ。嫌なのか」 「え、違う! そうじゃないの!」  エミリアはぶんぶんと首を振った。 「…………でも、いいの?」 「なにがだぁ?」  アムドゥスは首をかしげると、エミリアをじっと見上げて。 「来たけりゃ来ればいいし、来たくなきゃ来なきゃいい。1人で行くのも冒険者んとこに戻るのも嬢ちゃんの自由だ。なんなら自死すんのも自由だぜぇ?」  アムドゥスの言葉にエミリアは肩を落とした。 「…………そっか、死ぬのもありなんだもんね」 「嬢ちゃんが死にたいってんなら俺様は止めねぇよ」 「じゃあ────」 「嬢ちゃんが望むなら、な」  アムドゥスはつぶらな瞳でエミリアをじっと見つめて。 「死にたいのか?」 「…………」 「ケケ、少なくとも魔人だからとか、そうすべきみたいな義務感で死のうってんならやめときな」 「でも、あたしは」 「なら逆に聞くぜ? 嬢ちゃんは、生きたいか?」  アムドゥスの問いにエミリアは言葉を詰まらせる。 「決めんのは嬢ちゃんだぜ?」 「…………あたしは、生きててもいいの?」  エミリアはアムドゥスをまっすぐ見つめながら言った。 真剣な眼差し。 だがアムドゥスは笑い声をあげる。 「ケケケケケ! 良いも悪いも生きるのに誰かの許可なんかいらねぇだろうが。違うか?」  アムドゥスはため息を漏らした。 「そもそも嬢ちゃん最近笑ってるかぁ? あのおっさんのビビった顔を思い出せよ。さんざんいじめられてきたんだろ? 痛快だったろうが」  アムドゥスはエミリアの肩に飛び乗った。 「ケケケケケ! ほら、あのおっさんの泡吹いて倒れてたの思い出して笑ってみな」 「…………あはは」 「いまいちだな、やり直し。ケケケケケ!」 「…………けけけけ、け?」 「もっと大きな声で! ケケケケケ!」 「けけけけけ!」 「ケケケケケ!!」 「けけけけけ!!」  エミリアは大きな声でアムドゥスの笑い方を真似る。 「ケケ! いい感じだな。んでどうする? 俺様達と来るか? 来ないか? 嬢ちゃんの好きにしな」 「あたしの名前はエミリア。カラスさんの名前は?」 「…………ケケ、俺様の名はアムドゥスだ」  アムドゥスが名乗ると、そのタイミングで背後から足音が聞こえた。 「アムドゥス、そこか?」 「おう、ブラザー」  ディアスの問いにアムドゥスは答える。 「つーわけで、俺様の下僕2号だ」 「エミリアです。よろしくお願いしま…………す? あれ、あたしってアムドゥスの下僕なの?」  エミリアは首をかしげると、肩に乗ったアムドゥスに振り返った。 「おうよ」  アムドゥスは即答する。 「つーわけで、俺様の下僕2号だ」  アムドゥスが翼でエミリアを指しながら言った。 「下僕2号です。よろしくお願いします」  エミリアがぺこりと頭を下げる。 「俺はディアスだ」  ディアスは端的に自己紹介するとアムドゥスに視線を向ける。 「この感じだと話はついてるのか?」 「ああ、ついてくるとよ」  アムドゥスが答えるとディアスはエミリアに視線を移して。 「エミリア? は、いいのか。冒険者の方とも話をしたが、君が望むなら冒険者側に戻ることもできる。俺には保証はできないが待遇の改善もしてくれるって話だが」  エミリアは首を左右に振った。 「お邪魔でなければ、あたしも一緒に行かせてください!」  エミリアが深々と頭を下げる。 「ああ、俺は構わないよ。これからよろしくなエミリア」 「ケケケ、話は決まりだな!」 アムドゥスはディアスの肩に飛び移った。 エミリアをパーティーに加え、2人と1羽は次の目的地に向けて歩き始めた。
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