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少年は先ほど投げ放った剣を拾いに行こうと一歩踏み出して。
だが足の痛みに顔をしかめた。
思わず足を止める。
「足をやったのか」
ディアスは手頃な切り株を見つけると、少年にそこに腰かけるように促した。
少年が座るとそのそばに屈む。
ディアスは少年のブーツを脱がせると、足首が大きく腫れ上がってるのを確認した。
エミリアはその間に少年の剣を拾い上げると、少年に手渡す。
「ありがとう」
少年が礼を言った。
受け取った剣を腰の鞘に納める。
「この足で歩くの厳しいな」
ディアスが言った。
「大丈夫だって。まっすぐ行けば1時間もかかんないし」
少年はそう言うとブーツを穿き直す。
「その足でこんな足場の悪いところを歩いたら悪化するぞ」
「大丈夫、大丈夫────」
1歩、2歩、3歩。
少年はずんずんと歩みを進めるが、その顔がみるみる痛みに歪んで。
「ほら、全然余裕だよ」
そう言って振り返った少年の目は、発言とは対照的に涙で潤んでいた。
「いや、泣いてるじゃん!」
「泣いてないー!!」
エミリアが言うと少年はすかさず大きな声で否定して。
だがその拍子に涙がこぼれ落ちた。
少年は慌てて涙をぬぐう。
「そうだ、あたしがおぶって行こっか!」
エミリアからの提案。
だが少年は首をぶんぶんと振った。
「遠慮しなくても、あたし力持ちだから全然平気だよ?」
「いや、そういうことじゃなくて……」
口ごもる少年。
顔を少し赤らめながらエミリアをチラチラと見る。
「要は女の子におぶってもらうのが恥ずかしいんだろうよ。ケケケケ」
エミリアの頭巾に潜んでいたアムドゥスが耳元でささやいた。
「あー、そういうことか! 恥ずかしがる事ないのにー」
「は、恥ずかしいに決まってるだろ! 女の子におぶってもらうとかダサすぎる」
「子供だなー」
「子供って、そっちのが多分年下だろ?!」
「けけ、あたしのがおねぇさんかもよ?」
エミリアは胸を張って言う。
「どっちにしろやだー」
少年はまた首を左右に振った。
ディアスは二人のやり取りを静かに見ていたが、おもむろに背負っていた剣の鞘をおろした。
「エミリア、持ってくれるか?」
「はーい」
ディアスは合計6本の剣をエミリアに渡す。
「名前は?」
ディアスは少年に訊ねた。
「アーシュガルド、です」
「アーシュ、でいいか?」
「う、うん」
アーシュがうなずくと、ディアスはアーシュの前で背中を向けて屈んだ。
「アーシュ」
ディアスは肩越しにアーシュを見ながら言った。
おぶされと促す。
「え、でも……」
「アーシュ、早く」
アーシュは言われるまま、ディアスの首に手を回した。
ディアスはそのままアーシュを担ぎ上げる。
「集落の方向は?」
「あっちの方」
アーシュが指を指した。
ディアスはその方向に向かって歩き出して。
その後ろを剣を両手に抱えたエミリアがついていく。
「ディアス兄ちゃんってさ────」
アーシュはディアスの顔を覗き込むように乗り出した。
ディアスは目を見られないようさりげなく顔を伏せる。
「遠隔斬撃の剣技って得意?」
「それなりには得意、だった」
含みも持たせた言い方。
だがアーシュはその意図に気付かない。
「だよね! さっきも『その刃、疾風とならん』使ってたし。おれ今遠隔斬撃の剣技を覚えようと思っててさ」
「遠隔斬擊は近接武器の射程の短さを補えるし、筋力に左右されないから子供でも極めれば強い斬擊を使える。シンプルな分応用も効きやすいし、それをメインで使ってた身としてはオススメできる」
アーシュはうんうんとうなずいた。
「……だが剣を手放す分リスクも高い。特に初歩となる『その刃、風とならん』とその強化系の剣を射出する技は射程は長いが攻撃を外した時はリカバリーが難しい。使うならメインの剣じゃなく、威力を落としても投擲用の短剣なんかを用意しとくのがいい」
「そーなんだ。そういえばディアス兄ちゃんは剣をいっぱい装備してるけど、白の勇者って知ってる?」
「ケケケケケ!」
思わずアムドゥスが笑い声を上げた。
その笑い声を聞いて、アーシュは怪訝な面持ちでエミリアに振り返る。
「あー、ちょっと思い出し笑いを、ね。けけけけけ」
エミリアが誤魔化した。
アーシュは首をかしげたが、すぐディアスに向き直った。
「知ってる?」
「…………ああ、知ってる」
「ソードアーツの連続発動に特化しつつ、強力な遠隔斬撃を組み合わせた連続攻撃ってのがかっこいいよね!」
アーシュは目を輝かせて。
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