#2 青い森の魔物

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「あんまり知られてないけど赤、黄、白の3勇者を含めた大連合による『魔毒の巨兵(シュベルト・ズィーゲル)』迎撃任務は白の勇者がいなかったら勝てなかったって言われてるんだよ! あとは消息不明になった黒骨の魔宮の攻略では冒険者で初めて最深部に到達したって!」 「……盛り上がってるとこ悪いが、それは噂話の類いだろう。最深部に到達した事を証明できるものは残らなかったはずだ」 「でもおれ、ちゃんと聞いたよー。そのパーティーの生き残りのお兄ちゃんとお姉ちゃんが1年前くらいに村に来て色々教えてくれたんだけど────」 「生き残り?」  アーシュの言葉を聞いてディアスの足が止まった。 「うん。それで最深部に到達はできたけど黒骨の魔王との実力差が大きすぎて、白の勇者は仲間を逃がすために1人で魔王のところに残って戦ったって。仲間のほとんどは逃げてる途中で死んじゃったけど、2人はなんとかダンジョンを脱出して助かったって言ってたよ」  それを聞いてエミリアはひそひそとアムドゥスに声をかけた。 「アムドゥス、ディアスの仲間って全員死んだんじゃなかったの?」 「俺様はあのダンジョンの内部を常に監視してたが、ディアスがダンジョン外に放り出されたのと同時に俺もそっちに転移させられて監視の目が切れちまったからなぁ。そんときにはあいつの仲間は早くも半数が死んじまってたから、脱出はまず無理だと思ってたが」  アムドゥスが答えると、エミリアはディアスとアーシュの方に視線を向けた。 「2人ともかなりの大怪我だったし、ポーションが今よりも貴重だった頃だから傷が治るまで長い間ほとんど寝たきりだったみたい」 「でも、無事だったんだな?」 「うん。それで白の勇者の話のほとんどはその2人から聞いたんだよ!」 「……そうか」  ディアスは小さく呟くとまた歩き出した。  エミリアは駆け出すとディアスとアーシュの前に出る。 「アーくん、他にもディ……じゃなくて白の勇者の話聞かせてよ!」  その言葉を聞いてディアスはエミリアを睨んだ。  だがエミリアはその視線に気付くとにやにやと笑みを浮かべる。 「アーくんて、おれ……だよな?」 「うん。アーシュガルドだからアーくん!」  エミリアはアーシュに振り返ると言った。  明らかに嫌そうな表情を浮かべるアーシュ。 だがエミリアは気にしない。 「ねぇねぇ、そんな事より白の勇者の冒険譚もっと聞かせてよ! 誰かさんはそういう話全然してくれないんだもん。きっとオススメの話とかあるでしょ?」 「うーん、じゃあまずは────」 「話すのかよ」  それから1時間弱。 ディアス達は森の(ひら)けた場所に出た。 周囲をぐるりと深い木々に囲まれた土地の中心に高い石垣(いしがき)と頑強そうな両開きの門、その左右の守衛の姿を見つける。 「おい、あの冒険者の背中にいるの。あれアーシュじゃねぇか」 「ああ、間違いねぇ」  守衛が気付いたのを察すると、アーシュはディアスの背で大きく手を振った。  それを見て守衛の一人は駆け足でディアス達の方に向かう。 「アーシュ、また1人で村を抜け出して。帰りが遅いから心配してたんだぞ」 「ごめんなさい。魔物を追ってたら足くじいちゃって」 「にいちゃんがアーシュをここまで? すまないね、助かったよ」  守衛はディアスに会釈(えしゃく)した。 次いでアーシュを自分の背におぶる。 「では、俺達はこれで」  ディアスも会釈(えしゃく)を返すと、森の方へときびすを返した。 「待ちなよ、もう夜になる。今夜はうちの村に泊まってきな。アーシュを助けてくれた礼もしたい」 「急ぐ身ですので。お気持ちだけで結構です」 「お嬢ちゃんも連れて魔物の徘徊する夜の森を抜けるってのは危険過ぎる。小さな村で大したもてなしもできねぇが、ぜひ今夜は泊まってきなよ」 「ディアス兄ちゃん、泊まってってよ。おれもちゃんとお礼したい。あと遠隔斬撃(ストーム系)の剣技教えてほしい!」  キラキラとしたアーシュの眼差し。 「本命はそっちか」  ディアスは肩をすくめた。 「違う違うー! 確かに教えてほしいってのもちょっと……、いや半分……、やっぱり…………。でもお礼がしたいのはほんとだもん」
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