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「勘違いだ。俺が武器をたくさん携えているのはさっきの子供が言った通りソードアーツに頼るしか能のない下級冒険者だからだ。勇者なんて呼ばれるような人間じゃない」
否定するディアス。
だが守衛は首を左右に振って。
「いいや、その10本の剣には見覚えがある。俺も昔は冒険者をやっていて『魔毒の巨兵』迎撃任務に参加した。アーシュにその迎撃任務の話をしたのも俺だ。村に執拗に招待したのは、にいちゃんが白の勇者だって分かってたからだ」
「……仮に俺が白の勇者だとして、何の目的が?」
「そんな大層なもんじゃない。にいちゃんはアーシュの憧れだ。名乗り出る事を強要するつもりはないが、にいちゃんならアーシュに何かしらアドバイスできるんじゃないかと思ってな」
守衛はそう言うと扉に手をかけて。
「俺はアーシュの様子を見てくる。家のものは自由に使ってくれてかまわない」
守衛が家をあとにした。
「お前さん虐められっ子だったとはな。ケケケケ」
アムドゥスがエミリアの頭巾から顔を出した。
「さっき怒ってたのもそれだな? お前があのタイミングで怒るってのは自分のことじゃねぇ。あのガキに昔の自分でも重ねたかぁ?」
「さぁな。そもそも俺怒ってないし」
「ケケ、嘘つきだな」
「けけ、嘘つきだね。……それにしてもアーくん、大丈夫かな。足も怪我してたのに」
エミリアは不安げに扉の方に目を向けた。
ディアスもその視線を追って扉を見る。
それからしばらくして。
突如開け放たれた扉。
扉の先には守衛の姿があった。
「悪いな。手伝ってもらえるか」
早口で守衛が言った。
「アーシュがいないのか?」
ディアスの言葉に守衛はうなずく。
「おそらくアーシュだと思うが武器庫に人が入った形跡があって、調べたら投擲用の短剣がいくつか無くなってた」
「ケケ、余計な事言っちまったなブラザー」
頭巾の陰でアムドゥスが呟いたが、その言葉はエミリアにしか届いていない。
「門の方の見張りは?」
ディアスが聞いた。
「いや、子供しか知らない抜け道がいくつかあったりするんだ。おそらくそこからだ。今までにも似たような事はあったが夜の森に出てくのは危険だ。だが村の警備の関係で捜索に人は割けない」
「いこう、ディアス!」
エミリアはディアスに振り返った。
「お嬢ちゃんも行くのか?」
「大丈夫、あたし強いから」
「ああ、エミリアはこう見えて強い。俺が保証する」
「わかった。アーシュが面倒かけてばかりですまないが頼む」
守衛はランタンを取ると火を灯し、腰のベルトに留めた。
ディアスとエミリアにも火を灯したランタンを手渡す。
「夜の森はかなり暗い。魔物も活発になってるから注意してくれ」
守衛の言葉に2人はうなずいた。
守衛のあとに続いてディアスとエミリアは村の出入口を目指す。
「なぁ、何かあったの?」
通りかかったのは少年少女グループのリーダー格の少年。
その少年はエミリアを見つけると露骨に舌打ちした。
エミリアはそれに気付くと、べーっと舌を出す。
「関係ない。家に帰ってなさい」
守衛は足を止めること無く少年に答える。
「ふーん」
少年は潜り戸から3人が出ていくのを見ると、にやりと笑った。
すぐに門とは逆方向に走り出す。
ディアスとエミリア、守衛の3人は村を出ると森の中へと分け入っていく。
「じゃあ、俺はこっちを探す。にいちゃんとお嬢ちゃんは?」
「あたし達も分かれよう。あたしはあっちを探すからディアスはそっちお願い」
「分かった。2人とも気を付けて」
「任せとけ。俺はここの森はよく知ってる。むしろ2人とも気をつけてな」
「うん。それじゃディアス、守衛さん、またあとでね」
3人はそれぞれ別々の方向に進んでいく。
夜の森は深い闇に包まれていて。
ディアスはランタンを掲げて森の奥に目を凝らすが、ランタンの灯火ではディアスの周囲しか照らせていない。
そして木の葉の音に紛れて微かに魔物の唸り声がいくつも響いていた。
「魔物の巣が近いのか、永久ダンジョンが近いのか。どちらにしろ厄介だな」
ディアスはランタンを片手にもう一方の手で剣を抜くと駆け出した。
木々の隙間を走り抜け、藪を飛び越えて。
周囲に視線を走らせてアーシュを探す。
「アーシュ!」
ディアスが叫んだ。
だがそれに応えたのはアーシュではなく。
ディアスの頭上から雄叫びがあがる。
ディアスが見上げた先には魔物の姿。
木の枝を蹴って急降下する魔物は鋭い歯牙を剥き出しにしていた。
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