#2 青い森の魔物

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 少年少女達は一度大きく距離をとった。  その視線の先ではエミリアを中心に森の景色が塗りつぶされて。 現れたのは円形の石畳(いしだたみ)とその左右に並ぶ黒い燭台(しょくだい)燭台(しょくだい)には紫色の炎が灯り、辺りを不気味に照らし出す。  エミリアはその手に青いハルバードを召喚した。 「陣形を組め」  リーダー格の少年が言うと、周りの少年少女は配置についた。 リーダー格の少年を筆頭にその左右に背の高い少年と坊主頭の少年。 その後ろに最年少の少年、最後尾に少女と並ぶ。  少女は(たすさ)えていた杖をかざした。 「スペルアーツ『速度強化(アクセラレイト)』!」  少女の発動したスペルアーツが彼女の杖の触媒(しょくばい)を通して増幅されて。 効果を数倍に高められた魔法がパーティー全体に付与された。 彼らの体を緑色の光が包む。 「ケケ、ガキの集まりのくせにちゃんとバッファーがいんのか。単体だと補助程度のスペルアーツも杖のブーストがあればそこそこ化けるぜぇ? バフをもらって反応速度、身体速度だけなら無強化のB難度攻略者に匹敵する」 「そこから他のバフを重ねがけしても杖でブーストを維持できるスペルアーツは1つ。総合値でB難度攻略者に満たないのならあたしの敵じゃない」 「スペルアーツ『筋力強化(ストレングス)』! 『武装研磨(パリッシュ)』!」  少女はさらにスペルアーツを発動し、パーティーに重ねがけした。 少年少女を包む光が緑と赤で点滅し、武器に黄色の光が(まと)う。 「『神秘を紐解く眼(アナライズ)』」  中衛を担う最年少の少年はエミリアとその魔宮を観察する。 「……魔宮にギミックはなし。ボス部屋のバフ効果が高めなので魔人本体の動きに注意してください。ボスや雑魚の召喚による奇襲にも注意を!」 「ちなみにステータスは? どんくらい強い」  坊主頭の少年がエミリアから視線をはずさずに聞いた。 「比較対象がなくて答えがたいですが…………とにかく強いです!」 「あいよ」  坊主頭の少年は答えた。 その額から冷や汗が(にじ)んでいる。 「いくぞ」  リーダーの掛け声と共に前衛の3人は駆け出して。 「スペルアーツ『魔力流出(マナドレイン)』」 「スペルアーツ『魔力流出(マナドレイン)』」 「スペルアーツ『魔力流出(マナドレイン)』」  同時に武器にスペルアーツの効果を付与した。 「スペルアーツ『魔力吸収(アブソーブション)』」  中衛の少年がリーダー格の少年の剣にさらにスペルアーツを重ねがけする。  エミリアは貫かれた肩を(かば)いながらも、片手でハルバードを軽々と振りかぶった。 迫り来る3人の少年達に向けて横薙(よこな)ぎにハルバードを振るう。  即座に反応する3人。 左右の2人は飛び出すと武器を構え、エミリアの攻撃を受け止めた。 それと同時にリーダー格の少年が地面を蹴って。 彼はハルバードの下を(くぐ)り抜けると、エミリア目掛けて長剣を振るう。  その刹那(せつな)。 エミリアはハルバードを握る手に力を込めると、力任せにハルバードを振り抜いた。 攻撃を受け止めていた少年2人が吹き飛ばされる。 「────っ!?」 「────!」  2人が驚きの声を漏らすより早く。  エミリアは振り抜いたハルバードの柄を使い、自身に迫る長剣を受け止めて。  すかさずエミリアはリーダー格の少年のみぞおちに鋭い蹴りを放った。 体をくの字に折りながらその身体は後方に吹き飛ばされる。  一瞬の攻防で3人の少年はエミリアの魔宮の外にまで吹き飛ばされて。 少年2人はエミリアの前方、最年少の少年と少女のいる方へ。 リーダー格の少年はエミリアの斜め後方へと飛ばされる。  長身の少年は受け身をとったが、坊主頭の少年は背後の木に叩きつけられた。 くぐもったうめき声をあげる。  リーダー格の少年は身をひるがえすと着地。 みぞおちを片手で押さえながらもまたエミリア目掛けて走り出した。 「リカバリー!」  リーダー格の少年が叫ぶ。 「はい! スペルアーツ『活性治癒(キュアー)』!」  少女は回復効果のあるスペルアーツを杖の触媒(しょくばい)によって強化。 前衛3人の傷を癒す。 「スペルアーツ『速度強化(アクセラレイト)』」  少女はすぐさま『速度強化(アクセラレイト)』をかけ直した。 杖の触媒によるブーストが切れたバフを再びブースト状態にする。  長身の少年と坊主頭の少年もリーダー格の少年に続いて駆け出した。 「あれやるぞ!」 「あいよ!」 2人の少年は剣の魔力を解放する。 「ソードアーツ『激流の障壁(フラッド)我が身を護れ(・ウォール)』!」  剣の切っ先を地面に突き立てて──── 「ソードアーツ『毒せ(ポイズン)苦悶の一撃(・インパクト)』」  剣から猛毒の障気(しょうき)が溢れ出して──── 「エミリア、あれちょっとまずいぞ!」  アムドゥスが声を上げた。  突き立てられた剣から湧き上がる水流の壁。 そこに猛毒の障気(しょうき)(まと)った剣が振り下ろされた。  (またた)く間に水が障気(しょうき)(おか)されて毒々しい色に染まって。 障気を(たた)えた水の壁が濁流となってエミリアに押し寄せる。
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