#2 青い森の魔物

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顕現(けんげん)して、あたしの『在りし日の咆哮(シャルフリヒター)』」  エミリアは魔宮を展開し、自身の能力を底上げした。 人面の魔物によって触れた先からエミリアの魔宮は青白い結晶へと変えられるが、同時に魔宮を再展開し続けてそれに抗う。  エミリアは迫り来る尾を一薙(ひとな)ぎに斬り伏せた。  それに続いて長身の少年と坊主頭の少年が剣を振るう。  少女と最年少の少年は終始サポートに徹し、リーダー格の少年は指示を出していた。  アーシュは長剣を取った。 左右の手に剣を持ったアーシュはよろよろとふらつく。 「で、これでどうすればいいの? おれ、力がないから両手で剣持たないとまともに振れないんだけど」 「ケケ、そんな非力なくそガキでも双剣使いに早変わりの裏技があるぜぇ? お前さん、遠隔斬擊(ストーム系)に分類される剣技のウィンドとストームとは別にある派生系は知ってるか?」  アムドゥスの問いにアーシュは首を左右に振った。 「おれはその2種類しか知らないよ。他に系統があるの?」 「ケケ、初歩的な応用のわりに使ってる奴は少ないって言ってたからな。そもそも遠隔斬擊(ストーム系)は知られてこそいるが人気のない剣技だ。その応用使うくらいなら、そもそもメジャーどこの抜剣斬擊(ブリッツ系)連鎖斬擊(カスケード系)魔力斬擊(オーラ系)の剣技を覚えて使うだろうよ」  アーシュは不満そうな表情を浮かべたが、アムドゥスに言い返せなかった。 周りにいないのだ。 遠隔斬擊(ストーム系)の剣技を習得している人も、習得しようとしている人も。 「ちなみにお前さん、魔力値はいくらだ?」 「…………60ちょっと、かな」 「ケケ、嘘つけ。0だろうが」 「んなっ」 「俺様の目にはステータスなんてお見通しよ」 「じゃあなんで聞いたの?!」 「ケケケケケ!」  アムドゥスが笑うとアーシュは顔を真っ赤にして。 「それでおれの魔力とその派生系になんの関係があるのさ」 「その2つに直接関係があるわけじゃねぇ。ただ魔力なしってのはただの欠点じゃなく、利点もあるって話な────」  アムドゥスはディアスから聞いたその使い道をアーシュに語って。 「ケケケ、それが白の勇者の秘密。魔力を持たないお前さんは魔力操作の習熟度も最低値のままだから使いこなせるわけじゃねぇだろうが、試す価値は十分にあると思うぜ?」  アーシュは静かにうなずいた。 「ケケ、んでもって遠隔斬擊(ストーム系)の応用に話は戻るが、ディアスはこれの分類をサイクロンと呼んでた」  アムドゥスは奮闘するエミリアや少年少女達に視線を向けた。 前衛2人とエミリアはすでにぼろぼろになっていて。 「ほんじゃ、サイクロンの説明は走りながらだ」  アーシュはうなずくと左右の剣を肩に担ぎながら走り出した。  その先ではエミリアが攻守両方を担い、2人の少年が隙をついては攻撃を加える流れで戦っている。 エミリアと少年少女達の連携によって戦況は維持できていたが、じり貧であるのは誰の目にも明らかだった。  魔物が操る尾は切っ先にさえ気を付ければ断ち斬るのは容易いが数に際限がなかった。 どれだけ斬り伏せても次々と新しい尾が無数に形成される。 そして全身の明滅する光を収束させた蹄の一撃は受ければ1発でこの世から即退場となるほどの威力を秘めていた。 時折発するバインドボイスもかなりやっかいなもので。 現状はそれらの対応に追われ、有効打を与えられずにいる。 「ケケ、今だ!」 「うん!」  そこにアーシュが加勢に加わった。 魔物の背後から2本の剣を横薙(よこな)ぎに振るう。 おぼつかない剣閃(けんせん)。 だがその刃は加速すると共に安定して。 「『その刃、竜巻の如く(ソード・サイクロン)』!」  剣を手にしたまま、自身の膂力(りょりょく)に剣の操作の力を上乗せした斬擊。 アーシュは人面の魔物の後ろ足を斬りつけた。 片足を軸に回転し、剣の勢いを加速させながら続けざまに刃を振り抜く。 その連擊はさながら竜巻のようで。 甲高い音を響かせ、人面の魔物の後ろ足に深い傷を与える。 「よし! このまま畳み掛けるっ!」  アーシュは剣を振りかぶった。 すかさず剣の魔力を解放する。
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