#2 青い森の魔物

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 アーシュは(つたな)い魔力操作と剣の操作を平行しながら攻撃を続ける。  カチカチカチカチ…………。 アーシュの頭の中で歯車の音は鳴り続けていた。  アーシュはさらに斬擊を重ねて。    カチ、カチ、カチ、カチ…………。 なおも歯車は回る、回る。  剣は斬擊と共に魔力を蓄えて。  カチリ、カチリ、カチリ、カチリ…………。 回り続ける歯車。 だがその速度は徐々に遅くなっていて。  ソードアーツによる加速効果が切れ始めていた。 その視界が色を取り戻す。  だがその間際。 アーシュの握る剣に魔力が溜まった。 「溜まった……!」 アーシュは振り抜いた剣を横目見て。 すかさず剣を構える。 「ソードアーツ『炎よ、斬り裂け(ライト・スラッシュ)』!」  灰色に染まった視界が色を取り戻すと共に、明々と燃え上がる刃が閃いた。 深い闇を照らす炎の剣閃。 アーシュはソードアーツに『その刃、竜巻の如く(ソード・サイクロン)』の威力を上乗せする。  刃が魔物の体を斬り裂くと同時にその傷から溢れ出す魔力。 アーシュは振り抜いた剣から自身の身体、そして長剣へとその魔力を伝達する。  そして紅蓮の炎が真一文字に尾を引いた。 その一撃で魔物の足の1本が砕け散る。  人面の魔物がつんざくような悲鳴を上げた。 左右バラバラに目まぐるしく回る暗黒の瞳。 魔物は7本の足をばたつかせながら悶える。  エミリアと少年は2人は得物を振りかぶって追撃に。 アーシュは一度後ろに下がる。  その時、魔物の全身の幾何学(きかがく)模様に走る光が強く(またた)いて。 その輝きが目も開けられないほどの閃光となった。 「エミリア、ガキ共、下がれっ!」  アムドゥスが叫ぶ。  次の瞬間。 人面の魔物の周囲が一瞬で結晶化した。 魔物を中心に波打った結晶が幾重にも重なって現れる。 魔物の放った閃光を内部で反射させ、光を放ち続けるその姿はまるで光の花弁。  エミリアはアムドゥスの声と共に飛び退()き、その結晶を回避していた。 だがアーシュと少年2人は身体の一部を結晶に飲まれていて。 アーシュは左腕。 長身の少年は膝から下。 そして坊主頭の少年は胸から下を結晶が覆っている。  そしてその結晶は覆ったところからさらに拡がっていた。  アーシュと少年2人の表情は青ざめていた。 結晶に覆われた場所と魔物とを交互に見て。 その顔に動揺と焦りが広がる。  人面の魔物は身動きの封じられた3人を見下ろしていた。 もはや人の顔立ちをしながら、その表情は読み取れない。 うろたえる3人を前に、(ひづめ)を高々と持ち上げる。  リーダー格の少年と最年少の少年、少女は目の前の絶望的な光景に身動きがとれなかった。 ただ呆然と魔物の動きを見つめている。 「みんな、諦めないで!」  エミリアはハルバードを大きく振りかぶりながら魔物に飛びかかった。 鬼気迫る表情。 赤く光を放つ瞳が光の尾を引く。  渾身の力を持って振り上げたハルバード。 エミリアは魔物の振り下ろした(ひづめ)を迎え撃った。 その(ひづめ)を跳ね返す。  人面の魔物はすぐさま次の(ひづめ)を持ち上げた。  エミリアはそれを見ると歯を食い縛り、ハルバードを構えた。 振り下ろされる(ひづめ)をさらに跳ね返す。  続けざまに魔物から繰り出される無数の尾。  エミリアが尾を斬り払ってる間に魔物はまた(ひづめ)を振り下ろして。  (ひづめ)を打ち返したエミリアだが、その体勢を崩す。  そしてその目の前で魔物の体から放たれる光がまた強くなっていく。 「エミリア! またくるぞ!」  アムドゥスが言うとエミリアは結晶に飲まれた3人に視線を向けた。 「まずい。まずいけど────」  エミリアは顔を歪めた。 刹那の葛藤(かっとう)。 そしてハルバードを二閃(にせん)。  エミリアのハルバードは魔物ではなくアーシュの左腕と長身の少年の両足を両断した。  痛みに絶叫するアーシュを投げ飛ばし、苦悶の声を上げる長身の少年を担いで跳躍。  取り残された坊主頭の少年と振り向いたエミリアの視線が交わった。 少年の大きく見開かれた瞳。 震える唇。 追いすがるように少年はその手を虚空に伸ばす。  そしてまばゆい閃光。 魔物を中心に再び大輪の結晶が展開された。 坊主頭の少年がその全身を飲み込まれる。  絶望の表情を浮かべたまま結晶に飲み込まれた少年。  人面の魔物は2つに裂けた頭を左右に振りながら歩みを進める。 バリバリと結晶が砕け散って。 そして結晶に飲まれた少年の上に魔物が(ひづめ)を下ろすと、その身体が砕けた。 一歩踏みしめるごとに砕けた身体はさらに粉々になる。 「い、いやぁぁああああっ!!」  少女の絶叫がこだます。
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