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エミリアは絶叫する少女のそばに着地した。
両足を失い、痛みにうめく少年を寝かせて。
「ごめんなさい。あの一瞬だとこうするしかできなくて」
エミリアは少年に謝罪を述べると少女に視線を向けた。
「治療をお願い。出血を止め────」
少女はエミリアに憎しみを込めた眼差しを向けた。
彼女はエミリアの言葉を遮って。
「治療!? あなたが斬り落としたんじゃないのっ!!」
少女はとめどなく涙を流しながらエミリアを睨む。
「この化け物! 魔人のお前が死ねば良かったんだ。どうして人間の私達がこんな目に合わないといけないのよ……! 私達、何も悪くないのに!!」
「……ごめんなさい。あたしの力が足りなかったから」
エミリアは少女から視線を逸らした。
下唇を噛んで押し黙る。
「ごめんなさい……? ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ?!」
少女は半狂乱で叫んだ。
髪を振り乱し、エミリアに掴みかかる。
「初めから私達を助けるつもりなんてなかったのよ! 勇者がどうのとかも全部、全部、全部嘘! あの男があの魔物をけしかけてるんでしょ!? 魔人が人間の味方なんてするはずないもの。お前が私の友達を殺した! お前が私達を殺したんだ! 人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺しぃ……!!」
「…………」
エミリアは言い返さなかった。
そして人面の魔物へと視線を向けると決心したようにうなづいて。
「どこまで持つか分からないけど、あたしが魔物を足止めする。あなた達はその間に少しでも遠くへ逃げて」
「ふざけないで!」
少女が叫んだ。
「……痛い、痛い痛い」
両足を失った少年が呟いた。
太ももを強く握りながら痛みに悶えている。
「ああ! ごめんなさい、私」
少女はエミリアから手を放すと痛みにうめく少年に駆け寄った。
「スペルアーツ『活性治癒』!」
少女がスペルアーツを発動すると緑色の光が瞬いた。
出血が徐々に緩やかになっていく。
だが、スペルアーツの光が消えると再び傷口から血が噴き出した。
血だまりがみるみる拡がっていく。
それを見た少女は慌ててまたスペルアーツを発動する。
「『活性治癒』! 『活性治癒』! 『活性治癒』……!!」
少女は幾度となく回復のスペルアーツをかけるが、少年の傷口はふさがらない。
みるみる少年の顔は血の気を失い、唇は紫色になっていった。
「『活性治癒』!」
少女が叫んだ。
だが何も起こらない。
「そんな……魔力が…………」
度重なるスペルアーツの発動により、ついに少女は魔力切れを起こした。
呆然とする少女。
「ポーションは? アーくんの足はポーションで治したんでしょ?」
エミリアの問いに少女は力なく首を横に振る。
「ポーションは貴重だから、落としたり瓶が壊れてこぼれたりしないように村の外にはいつも持ってこないの」
「ケケケ。本末転倒な話だなぁ、おい」
アムドゥスはそう言いながらエミリアの肩に降りてきた。
「エミリア、ガキ共は置いて逃げるしかねぇ」
「それはできないよ、アムドゥス」
エミリアは首を左右に振った。
「諦めろ。ガキ共は連携がとれてたから、そこそこやれたんだ。個人個人の力はD難度の攻略者レベル。主力のお前さんはボスをやられ、魔宮の連続展開で疲弊してる。魔力の残量的にもあと一回魔宮が展開できるかも怪しいし、展開できてもそのまま魔宮に飲まれちまうぞ!」
「……あたしが永久魔宮になったら、あの魔物を足止めできるかもしれない」
「ケケ、永久魔宮化は魔人の末路の中でも最悪だ。魔宮が朽ち果てるまで永劫苦しむ羽目になるんだぞ」
エミリアは魔物に向かって歩き出した。
その目に灯る赤い光が強くなっていく。
「おい、聞いてんのか」
「でも、これしかない」
「永久魔宮化したところでガキ共を守れるとは限らねぇ。真っ先にガキ共を殺しにいく可能性だってあるぞ」
アムドゥスは両足を切断された少年に視線を向けた。
「ポーションがねぇんじゃ助かる見込みはねぇ。無駄死ににさせるんなら、喰って嬢ちゃんの魔力にしちまった方がガキも本望じゃねぇか?」
「あたしは……」
エミリアは拳を強く握りしめた。
拳がわなわなと震え、エミリアは下唇をぎゅっと噛む。
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