#2 青い森の魔物

19/30
前へ
/397ページ
次へ
────空を駆け抜けた閃光。 赤。 そして赤と緑とが連なる。  木々の隙間から閃光を捉えるとククッと笑って。 「救援要請か。さて、どうしたもんかな」  ディアスは苦笑混じりに言うと、矢継(やつ)(ばや)に放たれる弾丸を剣で斬り払った。 両手に握った剣を続け様に素早く振り抜き、自身の魔宮『千剣魔宮(インフェルノ・スパーダ)』によって現れた剣を束ねて弾丸の雨を()ぎ払う。  ディアスの目の前はすでに赤い(いばら)(おお)い尽くされていた。 ディアスの生み出す無数の剣によってディアスの周囲とその後方だけがかろうじて元の姿を保っている。  ディアスが対峙しているのは赤い(いばら)と青い(つる)が絡み合った、人の形に似た植物型の魔物の群れ。 その魔物の頭部には白く巨大な花があった。  白い(つぼみ)(またた)く間に花開くと、その中心部分が肥大。 花が散ると共に破裂し、種子の弾丸を辺りに()き散らす。 そして再び(つぼみ)をつけると、際限なくそれを繰り返して。  放たれる弾丸1つ1つの威力は鋼鉄の装甲すら容易く貫通するほど。 だがこの種子の弾丸の真価はそこではなかった。  ディアスの被弾した左肩と右足には種子が深々と突き刺さっていた。 その弾丸は容易く防御を突き破り、獲物の身体へと到達すると対象を貫通する直前に発芽。 一瞬で根を拡げて対象に取りつき、その身体を(またた)く間に(むしば)むのだ。  ディアスは傷口の中からは、侵食を食い止めるために展開した小さな無数の刃が覗いていた。 そこから(わず)かな血液を養分に成長した種子が(つる)を伸ばし、ディアスの左腕と肩、右足全体にまとわりついてその動きを阻害する。  ディアスは無数の弾丸を斬り払いながら魔物に肉薄して。 「ソードアーツ『灼火は分かつ(ブレイジング・クリーヴ)』! 『深き闇は裂きて(ダーク・リッパー)』!」 剣を交差させ、十字に斬り裂いた。 黒い閃光が走ると魔物の体が縦に裂け、紅蓮の剣閃と共にその体が炎に飲まれて。 花弁を散らして崩れ落ちる魔物。 すると遠くから風切りの音。 ディアスが後ろに跳ぶと、(いばら)(つる)の大きな束が地面に突き刺さって。 それは形を変えて四肢を、そして白い花の頭部を形作る。 「きりがない」  ディアスは周囲に視線を切った。 腰に吊るしたランタンの僅かな()を頼りに魔物の位置を確認。 すかさずディアスは駆け出して。 四方八方から放たれる弾丸を()(くぐ)り、魔物をまた1体斬り伏せる。  するとまた彼方から(いばら)(つる)の大きな束が飛来した。  深い(いばら)の奥からディアスを捉える巨大な魔物。 その魔物は自身の眷属(けんぞく)を生み出す能力を持っていた。 ディアスが花の魔物を倒す度に、その身体の一部を切り離して射出する。  ディアスは魔物本体へ攻めあぐねていて。  眷属(けんぞく)の戦闘力は本体の魔物の戦闘力に比例する。 ディアスは今までの経験と勘から眷属(けんぞく)の能力を元に魔物の能力を測っていたが、その力は今のディアスが太刀打ちできるものではなった。  ディアスは弾丸を斬り伏せながら後退。 救援要請である赤と緑の閃光の上がった方へ向けて移動を始めた。  次々と高速で飛来する魔物の種子。  それらを斬り伏せるのは至難の技だった。 ランタンの明かりに照らされてようやく浮かび上がるその姿は、ディアスから見れば突如として眼前に瞬間移動してくるも同じだった。  ディアスは行く手を(さえぎ)る花の魔物をすれ違い様に斬り捨てた。 ────と、同時に種子が弾ける音。 ディアスはすかさず跳躍して。  その視線は正面を。 左右を。 身をよじりながら後方を確認。  ディアスは(せわ)しなく視線を切り、刹那(せつな)の間に迫りくる弾丸を捉える。  研ぎ澄まされた聴覚が、暗闇に飲まれた森の中では視覚と同等かそれ以上に迫りくる脅威を知らせていた。 迫りくる弾丸を右手の剣が。 左手の剣で。 そして『千剣魔宮(インフェルノ・スパーダ)』によって展開した長大な刃を振るって斬り裂いた。  その時、剣閃(けんせん)(くぐり)り抜けた弾丸がディアスの腹部に命中して。 それは甲高い音を響かせるとそのまま貫通。  ディアスの腹部からはギシギシと刃物の擦れる音が鳴る。  痛みはなかった。 ただ体の中心が軋むのが不快で。  ディアスがすかさず体勢を立て直すが、その眼前には弾丸。 ディアスは剣を振り上げるが間に合わない。
/397ページ

最初のコメントを投稿しよう!

197人が本棚に入れています
本棚に追加