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すぐに2人は人面の魔物へと接近。
魔物は体を起こすと尾を振り乱して。
向かってくるエミリアとアーシュを睨むと咆哮する。
「振り上げ!」
アーシュはエミリアの呼び掛けに応えた。
エミリアが真白ノ刃匣を振り上げるのに合わせて剣を操作。
エミリアの膂力にアーシュは剣速を上乗せする。
長大な剣はその重量から魔人であるエミリアでも片手で振るうのは困難だったが、アーシュによる剣の操作の補助によって軽々と空を切って。
その刃が断ったのは魔物の咆哮。
純白の切っ先が目に見えない音の壁を斬り裂き、魔物のバインドボイスを無効化する。
2人は剣を掲げたまま魔物に肉薄して。
「ソードアーツ────」
アーシュは剣の魔力を解放。
エミリアが真白ノ刃匣を振り下ろす。
「『偽りと欺瞞の偶像』…………!!」
放たれるソードアーツは紛い物の勇者を謳って。
それは彼の憧れであり。
彼の執着であり。
そして彼の自身への皮肉か。
純白の剣は燦然と光を放ち、剣の軌跡は白い尾を引いた。
景色を斬り裂いたような白の中に無数の輝きが散る様は、まるで真っ白な宇宙のようで。
描いた白の剣閃は魔物の体をすり抜け、内部から魔力を飲み込んでいく。
白の軌跡は魔力を取り込む度に星々のような輝きを瞬かせた。
人面の魔物の体に描かれた幾何学模様を走っていた光は消え、その体は石のように変質。
その顔はどす黒く変色すると顔を歪めて。
大仰に悲哀とも驚嘆ともとれる表情を浮かべる。
人面の魔物はうろたえて後ずさった。
1歩下がる度にその身体に亀裂が走り、ぼろぼろと崩れ落ちていく。
その体はみるみる小さくなっていった。
身体に突き立てられた剣も一緒にこぼれ落ちる。
「このまま仕留めよう!」
アーシュが言うとエミリアは無言でうなずいた。
エミリアは振り下ろした剣を持ち上げて。
アーシュはそれを察知すると剣を操作してそれを手助け。
2人は剣を構えて人面の魔物に躍りかかる。
────刹那、遠くから風切りの音。
上空から木々を薙ぎ払いながら赤い蕀と青い蔓の束が飛来した。
アーシュとエミリアの2人と人面の魔物の間にそれは突き刺さって。
瞬く間に四肢と白い花弁の頭部を形作る。
魔物は2人の行く手を阻んでいた。
人面の魔物はニヤリと笑って。
次いでその視線は結晶化されたエミリアの魔宮の跡へ。
魔物はそこに穿たれた、自身が現れた穴へと飛び込んだ。
「アハッ、アハハハハハハハ!」
魔物の笑い声が穴の中から響いた。
その反響する声に、同じような無数の笑い声が連なる。
大地。
木の幹。
枝。
葉。
次々と赤い蕀が景色を飲み込み、赤く染め上げていた。
人面の魔物が現れ、そして消えていった穴をなだれ込むように押し寄せた蕀が覆い尽くす。
「逃がした!」
「逃げられた!」
エミリアとアーシュは声を揃えた。
「エミリア、クソガキ、逃げるぞ!」
アムドゥスが叫ぶのと同時に花の魔物の種子が炸裂。
放たれた弾丸がエミリアとアーシュに迫る。
エミリアは真白ノ刃匣を盾にしようと────
だが、剣が重い。
アーシュの反応が。
そして意思の疎通が間に合わない。
エミリアは防御から回避へと切り替えようとした。
だがすでに放たれた弾丸は目前に迫っていて。
その弾丸に一筋の剣閃が走って。
躍り出たディアスは両手に生成した剣を次々と振るう。
縦に。
袈裟に。
横に。
交差して。
そして振り抜いた刃が最後の弾丸を斬り伏せた。
ディアスは両手に召喚した剣を消すと真白ノ刃匣に手を置いた。
長大な剣全体を無数の刀剣が包むとその剣は姿を消す。
次いでディアスは爪先でタンと地面を叩いて。
そこから刃が四方に伸びた。
地を這って伸びる刃の1つが跳ね上がると花の魔物を斬り裂く。
そして刃は周囲に転がるディアスの剣をすくい上げた。
ディアスは集めた剣を鞘に納めた。
だが息づかいがおかしい。
腹部から脇腹にかけても修復は不十分で、歪に噛み合った剣がギシギシと軋んでいる。
「アーくん、一人でも走れる?」
アーシュはうなずいて。
「おれは大丈夫だからディアス兄ちゃんを」
エミリアはアーシュが答えると、すぐさまディアスに駆け寄った。
ディアスに肩を貸すと村の方へと向かう。
その後ろをアムドゥスとアーシュが続いた。
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