#2 青い森の魔物

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「アムドゥス、敵の追撃は?」  ディアスが掠れた声で(たず)ねた。 「ケケ、今んとこは大丈夫だ。魔宮の展開もこっちには拡がってねぇ。おそらく青い森に向かってまっしぐらってとこか」  アムドゥスは肩越しに後ろを振り返って。 その視線につられてアーシュも振り向いた。 その先には赤く染まった森が広がっている。  森を見つめるアーシュの瞳。 その紫の瞳は、悲しげだった。  ディアス達は村の石垣の見える所までたどり着いた。 木々の陰から様子を探ると、守衛達や武器を(たずさ)えた村人が慌ただしく動いている。 「警戒を怠るな! 魔宮の進行による魔物の進行に注意しろ。隣の町への避難経路の確保を急げ!」 「魔人が2体確認されてる。青年と少女の魔人だ。混乱に乗じて襲ってくる可能性があるぞ」  エミリアは隣で様子を(うかが)っているアーシュを横目見て。 「混乱に乗じて襲っちゃうぞ。がおー」  エミリアはアーシュに向き直ると口を縦に大きく開けた。 大きく口を開けるとエミリアの右の犬歯が生え変わりで抜けているのが見える。 「けけけけ、困ったなー。ディアスもあたしも戦う力はもう残ってないから、できれば村の人達と森を抜けたかったんだけど。もうあたし達2人が魔人なのはバレちゃってるみたい」 「おれが2人は良い魔人だって説得するよ!」 「…………無理だろうな」  ディアスが言った。 「魔人は人間の敵だ。人間を餌や玩具(がんぐ)としか見ていない人の形を模した真性の化け物だ。…………それが、人間の魔人に対して持つイメージだ。簡単には払拭できない。俺も魔人堕ちなんてしてなければそう思ってたさ」 「それでも、良い魔人はいる。おれはそれを知ってる。現にディアス兄ちゃんもエミリアも良い人だったよ?」 「アーくんてホントに良い子だねぇ」  エミリアは背伸びをすると、アーシュの頭に手を伸ばした。 その頭を撫でる。 「こ、子供扱いすんなよ!」  アーシュは不満そうに口を尖らせて。 「ていうか、俺のが年上ー!」 「けけけけけ」  エミリアが笑った。 「────ケケケ! 楽しそうじゃねぇか」  その時、アムドゥスが頭上から降りてきた。 アムドゥスはディアスの肩にとまる。 「アムドゥス、重い」  ディアスはアムドゥスをはたき落とした。 「イテッ。ヘイ、ブラザー。相棒をもう少し(いたわ)れよ」  アムドゥスはディアスの眼前で不満げに羽をバサバサと羽ばたかせながら飛ぶ。 「相棒ならまず俺の身体を(いたわ)れよ」  ディアスはため息混じりに言って。 「で、魔宮は?」 「偵察してきたが青い森のあった辺りで展開域の拡大を停止。魔物も上から見た感じ沈静化してたな。一定範囲に近づかなきゃ動きはねぇ」 「あの新種の魔物に魔王達が絡んでる可能性は?」 「さぁなぁ。ま、少なくとも7年前のネバロんとこではそんな動き無かったぜ?」 「でも無関係とは思えないよね」  エミリアが言った。  アムドゥスはエミリアの肩にとまって。 「ケケ。少なくとも今回の魔宮の異常な展開はアレの存在を隠したがってるようにも見えたわな」 「ネバロが魔宮の拡大を停止したのにも何か関連があるのか…………。ここは赤蕀の魔宮のテリトリーで黒骨の魔宮からはかなり離れてるから、あの個体と直接的な関わりがあるとも思えないが」  3人と1羽は門の方へと視線を向けて。 ちょうどその時、ディアスとエミリアと共にアーシュの捜索に出た守衛が村の中から現れた。 守衛は他の守衛や村人の視線を気にしながら森の方へと向かう。 「おれ、行ってくる。おじさんなら、きっと分かってくれるよ!」  アーシュは駆け出した。 森の陰から守衛に向かって走っていく。  守衛はその姿に気付くと、慌てて手振りで戻れと促した。 守衛はアーシュに駆け寄るとその体を自分の体躯で隠しながら木々の陰へ。 「アーシュ。良かった、無事だったか」  守衛はアーシュの肩を掴むと爪先(つまさき)から頭まで、大きな怪我が無いか確認した。 切断された左腕に視線を向けるとその表情が曇ったが、笑顔を作ると背中をバンバンと叩いて。 「で、あのにいちゃんとお嬢ちゃんは?」 「あっちに」  アーシュが指差すと、木陰から様子を窺っていたディアス達と守衛の視線が交わった。 「ケケ、素直過ぎんのも考えもんだな。これであのおっさんが魔人だー、なんて叫んだら俺様達かなりまずいぜぇ?」  ディアスは守衛の動きに警戒する。  守衛は安堵の表情を浮かべると、アーシュと共に駆け寄ってきた。 「良かった。にいちゃんとお嬢ちゃんも無事だったみたいだな」  守衛はディアスの警戒する視線に気づいて。 「安心しな。あんたらが居なかったら俺も悪ガキ共も全滅してた。他のやつらはなんて言うか知らねぇが、少なくとも俺は感謝してる」  守衛は頭を下げる。 「使い魔に偵察させたが、赤蕀の魔宮はひとまず沈静化してるらしい。もちろん、油断はできないがな」  ディアスが言った。
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