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ディアスは話し終えるとアムドゥスから手を放した。
「ぷはー!」
アムドゥスは大きく息をついて。
「…………てわけだ。良かったなぁ、くそガキ。ケケケケケ」
「何が良かったんだよ」
アーシュは唐突なアムドゥスの言葉を受けて怪訝な眼差しを向ける。
「ケケ。そりゃあ、ディアスが白の勇者の力を使えなくなった事よ」
アムドゥスは翼でアーシュを指しながら続けて。
「これでお前さんは遠慮する事なく白の勇者サマを継承できる。ブラザーは未だに未練があるみたいだが、俺様からしたらそれはただのリスクだ。メリットが何1つ無い。後継が現れりゃ自分の影に縛られずに魔人としての力が振るえるだろうよ」
「それはダメだよ! 白の勇者はディアス兄ちゃんだ」
「白の勇者サマに憧れてたんじゃないのか? なりたかったんだろ、白の勇者に。お前さんはその戦闘スタイルを踏襲できる数少ない魔力なしの1人だ。遠隔斬擊の剣技も習得してる。その力の種明かしもされた。躊躇う必要があるかぁ?」
「だって……ディアス兄ちゃんだって嫌だよ、ね?」
アーシュはディアスに視線を向けた。
「後継か、考えたことなかったな」
ディアスは呟いてからアーシュに視線を返して。
「俺は別に構わない。この7年、白の勇者を名乗ったことはなかったし。俺の戦い方を踏襲するのも『白』を名乗るのも俺は気にしないさ」
「あー……、ブラザー?」
「……ディアス」
アムドゥスとエミリアはディアスの顔をまじまじと見つめて言った。
「どうした?」
ディアスが訊ねるとエミリアは苦笑いを浮かべて。
「ディアス。顔、顔に出てる」
「ひでぇ面だぜぇ?」
眉間に寄った深いしわ。
鋭い目付き。
大きくへの字に歪めた口許。
言葉とは裏腹にその顔は明らかに快諾している者の顔ではなった。
普段無表情でいることが多いディアスだったが、今は如実に心の内が顔に表れている。
「いや、にこやかだろ」
「ケケ、嘘つけ」
アムドゥスは即座にディアスの言葉を否定した。
「……それで、これからどう動く?」
守衛がディアスに聞いた。
「アーシュの腕の回収と俺達がどう森を抜けるかか。ちなみに村人の避難は大丈夫そうか?」
「森の永久魔宮が出現した後に村人全員の避難計画は用意されていた。だが当初の避難予定だった町は赤蕀の魔宮の方向だから、計画されていた経路とは異なるルートで逆方向の村にひとまず避難する事になる。森を抜けた後に難所の谷があるが、そこをしのげば大丈夫だろう」
「おれの腕の回収ならおれが森の中を案内できるよ。赤蕀の魔宮に入ったら分からないけど、それまでなら魔物の少ない道を通っていける」
アーシュが言った。
ディアスはアーシュにうなずくと守衛に視線を戻して。
「村人の避難の開始は?」
「状況が状況だからな。普通なら朝まで待ちたいところだが、魔王クラスの魔宮が迫ってるとなると悠長にもしてられない。あと数時間で移動を開始するだろう」
「ならそれまでに腕を回収してアーシュを送り届ける必要があるな」
「その必要はないよ。おれはディアス兄ちゃん達についてく」
アーシュの言葉にディアスとエミリアは驚いた。
2人の様子を見て慌ててアーシュは付け加える。
「ついてくって言っても、ずっとじゃないよ? 2人は弱ってるし、俺なら森を出てくまでの道案内ができる。それにおれはもうこの村の人達とは一緒にいれないし」
「一緒にいれないって……。でも、アーくんの家族は?」
エミリアの問いにアーシュは首を左右に振って。
「おれ、家族はいないんだ。村でも嫌われてて優しくしてくれるの守衛のおじさんくらいだし。おれのお母さん……魔人堕ちでさ。森の永久魔宮はお母さんの魔宮なんだ」
アーシュは伏せ目がちに続ける。
「お父さんとお母さんは冒険者だったんだけど、強い魔物に襲われて小さかったおれとお父さんを守るためにお母さんは持ってた魔結晶と同化して魔人堕ちした。お母さんは魔人堕ちしてから1度も人は喰わなかった。でも魔人ってだけで理解されないんだ」
アーシュの声音が震えていた。
目に涙を溜めて。
アーシュは大きく鼻をすする。
「良い魔人だっているのにね。それで最期はお母さんが村人に追われて、でももう長くないからお父さんがせめて自分の手でお母さんを、て。でも殺せなくて、結局お母さんは永久魔宮化、お父さんはそれに巻き込まれて2人ともいなくなっちゃった」
守衛はアーシュに手を伸ばすと肩を抱き、ぽんぽんと肩を叩いた。
アーシュは目を伏せたまま口を尖らせ、涙をこらえている。
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