#3 赤の勇者

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「俺もエミリアも魔人としてそこまで強い個体じゃないからな。普通に、順当に……それで強くなれるのは冒険者も魔人も一握りだけだ。選ばれた人間に憧れを抱いても、結局その差は普通には埋められない。だからあの手この手で工夫を凝らして強くなるんだ」 「ディアス兄ちゃんが憧れてた冒険者っていたの?」 「俺は青の勇者に憧れてたよ」 「えー、青ぉ?」  アーシュは怪訝(けげん)そうにディアスを見て。 「青の勇者って話聞いてたら性格悪いからおれ嫌い」  アーシュの言葉にディアスはククッと笑い声を漏らす。 「あいつ実際性格悪いぞ。俺が白の勇者の称号をもらう前にダンジョン攻略一緒にやった事があったけど、俺も仲間もかなりイラついてた」 「でも憧れだったの?」 「会うまではな。歳は俺より下だったけど、俺が冒険者として駆け出しの頃からあいつは勇者の称号を得て活躍してた。それに憧れて俺も連擊特化を目指してた時期があったんだぞ?」 「じゃあディアス兄ちゃん連鎖斬擊(カスケード系)の剣技使ったりしてたの?」  ディアスはうなずいて。   「でも俺のステータスじゃ模倣してもダメだと思って、そこから連鎖斬擊(カスケード系)のスキルツリーを消去して遠隔斬擊(ストーム系)で手数を増やして俺なりの連擊を目指した」 「それでたどり着いたのが強力な遠隔斬擊(ストーム系)剣技とソードアーツの連続発動を組み合わせた怒濤(どとう)の連擊なんだよね! おれはやっぱり憧れはディアス兄ちゃんだな」 「俺がもうそれ使えないの忘れてないか?」  ディアスが言うとアーシュはハッとした。 申し訳なさそうにディアスを見上げる。 「……ごめんなさい」 「別に気にしてない」 「でも、顔怒ってるよ……」 「怒ってない」 「…………」  アーシュが(うかが)うようにディアスを見つめていて。  ディアスはニコリと広角を上げて笑って見せた。 「ディアス兄ちゃん」 「なんだ?」 「変な顔だよ?」 「…………」 「あ、普通になった」 「……なぁ喰っていいか?」 「ええ!?」  2人は会話を重ねながら街道を進んでいった。 だが次第にアーシュの返答は口数が少なくなっていって。  アーシュはあくびをすると目をこすった。 その様子をディアスは横目見て。 「夜も遅い。この辺は魔物も出なさそうだし、あの木の陰で休むか」  ディアスは少し先に見える広葉樹を指差した。 それにアーシュがうなずく。  2人は木陰に腰掛けた。 ディアスは片膝を立てて座り、その隣でアーシュは両足を投げ出して木の幹にもたれる。  アーシュはすぐにも寝息を立て初めた。  ディアスは周囲の警戒をしながら体を休めていて。  しばらくして2人に近づく小さな影。 「ケケケ、こっちだぜぇ」  アムドゥスが木陰のディアスのもとへと飛んできた。 そのあとを追ってエミリアが駆けてくる。 「無事か? エミリア」 「けけ、あたしは大丈夫だよ」  ディアスの問いにエミリアが答えた。 ()いでエミリアはアーシュに視線を向けて。 「アーくん、寝ちゃった?」 「ああ、ここに着いたらすぐさまぐっすりだ」 「ケケケケ、ひでぇマヌケ面だな」  だらしなく口を開けて寝ているアーシュを見てアムドゥスが言った。 「…………まぁ、見られなくて良かったじゃねぇかエミリア」  アムドゥスはエミリアの口許(くちもと)に視線を移した。 エミリアの口許(くちもと)は真っ赤に染まっていて。  エミリアが手の甲で口許(くちもと)をぬぐうと、頬にまで赤いそれが伸びた。 手の甲にも伸びた赤をエミリアは半眼で見下ろす。 「いい喰いっぷりだったぜ? うちの相棒にも見習ってほしいもんだ」 「アムドゥス」  ディアスはアムドゥスを睨んで。 「まさかアーシュがパーティーに加わったのはお前の策略で、目的はそれか?」 「ケケケ、なんのことだぁ?」  アムドゥスは首をかしげて。 「まぁ、身寄りのねぇガキ1人。生まれ持ったステータス上限も低くて片腕も失っちまってる。絶望しちまう前に喰い殺してやったらどうだ? どうせ腕は元通りにはならねぇんだろ?」 「そうなの? ディアス」  エミリアが不安そうにディアスを見る。 「元通りになるとは最初から言ってないさ。あくまで腕を繋ぐだけだ。どこまで動かせるようになるかは運次第だな」 「ひでぇ話だよなぁ、ケケケケケ!」  アムドゥスが笑う。 「アーシュは白の勇者を踏襲(とうしゅう)するんだろ。なら腕は元通りにならなくても問題ない。魔力を伝達するパスとしてさえ使えればな」 「果たしてくそガキ本人はそう思えるかなぁ?」  ディアスとアムドゥスはしばらく睨み合って。 だがアムドゥスはそっぽを向くとエミリアの胸へと飛んでいった。 エミリアは飛んできたアムドゥスを抱き抱える。 「ケケ、言うて人間のガキの事なんざ俺様の知ったこっちゃねぇ。好きにやりゃあいい」  アムドゥスはそう言うと口をつぐんだ。  エミリアはアムドゥスを抱えたまま、ディアスに寄り添うように腰をおろした。 ディアスにもたれかかる。
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