#3 赤の勇者

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 アーシュは携行食を食べ終えた。 鞄から木彫りの水筒を取り出すと水を飲む。  アーシュが水筒を鞄にしまうと、ディアスはその鞄を受け取った。 「街道沿いに進めば街に行き着くはずだ。そこで道を(たず)ねよう。黒骨の魔王のテリトリーに入るか、白竜の魔王のテリトリーにある街道に出られればあとは道はわかる」 「はーい!」 「了ー解!」  エミリアとアーシュが返事を返した。  ディアス達は街道を進み、昼過ぎには山の中腹にある街道沿いの町にたどり着いて。  レンガ造りの家屋が階段状に建ち並ぶ町並み。 石畳で舗装された道の左右には植え込みが並んでいた。 大きな町ではないが、レンガの赤茶色と木々の青々とした緑、空の青とのコントラストが美しい町だった。  その町の中央にはレンガ造りの大きな時計塔がそびえ立ち、その1階と2階がギルドの支部になっていた。  ディアスは白いフードを目深に被ってギルドの扉をくぐった。 その後ろをアーシュと白い頭巾を目深に被ったエミリアが続く。  ギルド支部は1階と2階が吹き抜けになっていた。 正面にカウンターが4つ並び、その背後には本棚が立ち並んで分厚い本がびっしりと並べられていて。 カウンターの隣には2階に続く階段がある。 見ると少年少女が端のカウンターに座る受付嬢と口論をしていた。 「ようこそギルドへ。何かご用でしょうか?」  ディアス達の来訪に気付いた若い受付嬢がカウンターから声をかけた。 「すまないが道を(たず)ねたくて」  ディアスはカウンターに向かうと、目的地である白竜の魔王のテリトリーにある山岳の街の名を伝えて。 「黒骨の魔王のテリトリーか白竜の魔王のテリトリーの街道に出たいんだが」 「山を越えなければならないので、お急ぎでしたらこの町の奥にある永久魔宮の洞窟を抜けると早いかと。ここの永久魔宮は難度E判定ですので、地図通りに進んでいただければそれほど危険もなく山の反対側に出られます」  受付嬢は眼鏡の位置を直すとディアス、エミリア、アーシュへと視線を移して。 「ギルド登録をされている方はいらっしゃいますか? 永久魔宮はギルドの管轄(かんかつ)になりますので、登録者の方の同伴でなければ通ることはできません。いらっしゃらなければ街道を進んで、ふもとにある商業都市の方から黒骨の魔王のテリトリーを経由していただくことになりますが」  ディアスは懐からギルドバッジを取り出すと受付嬢に見せた。  銀色に光るバッジを見て受付嬢はにこりと笑って。 「銀色──A級冒険者様ですね」  受付嬢はカウンターの引き出しから書類を取り出した。 カウンターの上に置かれた羽ペンを取ると切っ先をインクに浸す。 「お名前をよろしいでしょうか」 「…………クリフトフで頼む」   ディアスが答えると受付嬢は目を輝かせた。 カウンターから身を乗り出すとディアスに耳打ちする。 「私、『クリフトフ』の名前記入するの初めてなんです!」  受付嬢はうふふと笑うと書類に羽ペンを走らせてクリフトフの名を記入する。 「どんな依頼を受けてるのかしら。良かったら教えてくださらない?」  受付嬢が小声で言った。  ディアスは微笑を浮かべると首を左右に振った。 ゆっくりと人差し指を唇の前に持っていく。  受付嬢はその仕草を見るとまたうふふと笑った。 人差し指を唇の前に持っていってディアスに同じジェスチャーを返す。 「それではこちらが通行証になります。門番にこちらの書類をご提示ください」  受付嬢はペンを走らせた書類をくるくると丸めると青いリボンで留めた。  ディアスは丸められた通行証を受け取る。 「あとこちらが永久魔宮の地図です。更新は半年前になります」  受付嬢は引き出しから永久魔宮の地図を取り出した。 手のひら大の小さな地図を四つ折りにしてディアスに差し出す。 「ありがとう」  ディアスは小さく(たた)まれた地図を受け取った。 「それじゃ、失礼するよ」  ディアスがカウンターに背を向けた。 「旅のご無事を」  受付嬢が手を振る。  ディアス達はギルドの支部を出た。 「ねぇ、さっきの『クリフトフ』って名前なに?」  アーシュがディアスに()いた。 「ああ、クリフトフってのはギルドと冒険者の間で使われる隠語だよ。ギルドで極秘任務を受けていて実名を出せない冒険者が使う偽名なんだ」 「へー、そういうのがあるんだ。その名前って誰でも使えるの?」 「いや、ギルドバッジで銅──B級以上の冒険者であることを示した人間だけが使える。それ以下の人間が名乗ってもクリフトフが実名であることの証明を求められる」  ディアスがアーシュに答えていると背後のギルドの扉が勢いよく開いた。 ディアス達は邪魔にならないよう横にずれるが、現れた少年少女はまっすぐディアス達に向かってきて。 「ねぇ、あなた達この町の永久魔宮を抜けるんでしょ。私達も一緒に連れてってもらえないかな?」  先頭の赤い髪の少女が言った。
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