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「諸君、よくぞ集まってくれた」
ギルドに併設された酒場の一角。
複数の冒険者が取り囲むその中心で、1人の男が声をあげた。
口ひげをたくわえたその初老の男は、胸につけたギルドバッジの位置をわざとらしく直す。
「見ろよ、あのバッジ」
「ああ、中位管理権限を持った運営側の冒険者だ。でもなんでこんな片田舎のギルドに……?」
「すげぇ、本部の方の役人か」
周囲の冒険者の視線が男のバッジに注がれて。
冒険者達はひそひそと語り合う。
「おほん」
男はわざとらしい咳払いを1つして。
「今回この私──キール・クロスブライトが諸君に攻略してもらいたいのは先日この町から東の森を抜けた先に出現したダンジョンだ。攻略難度は観測隊の報告からC難度と判定された」
男の言葉に冒険者達がざわつく。
「難度Cだって?」
「Cって、もっと大部隊で攻略するもんじゃないのか?」
「この前攻略した魔宮がD難度で、今くらいの人数で挑んで死にかけたぞ」
「見たところ駆け出しの冒険者が何人か混ざっているような状態だからな。C難度ともなると参加者を選んだ方がいいかもしれない」
冒険者の男がちらりと部屋の隅に視線を向けた。
その先には白のフードを目深に被った白いマントの青年が1人。
その青年は10本の剣を携えていた。
「……ケケ、駆け出しの冒険者だとよぉ。勇者サマ?」
白いフードの中で耳障りな声が響く。
「あいつ駆け出しなのか? 10本も剣を持ってるぞ?」
冒険者の1人がそばにいる別な冒険者に訊いた。
「だからこそだ。複数個の武具を持ってるやつってのは大概ソードアーツの力に頼りきった駆け出しが多い。ダンジョン攻略の前に武器に魔力を溜めといて、攻略になったらそれを撃つだけ。難度の低い浅い階層の魔宮ならそれでわりと活躍できちまう」
「あんたの読みは合ってるぜ」
2人の会話を聞いていた冒険者が会話に加わる。
『神秘を紐解く眼』でここの冒険者のステータスをざっと見たが、あいつのステータスはこの中でも一際低い」
「勝手に人のステータスを盗み見るのはいい趣味とは言えないわね」
離れた位置からさらに別な冒険者が声をあげた。
「まぁ、そう言うなよ。ダンジョン攻略は個の力じゃなく群れでの強さが問われる。一緒に魔宮に潜る仲間の強さは重要な情報の1つさ」
会話に加わった冒険者はそう言うと肩をすくめる。
「ちなみにあのキールって男はどうなんだ?」
冒険者の1人が会話に加わった冒険者に訊ねた。
「あいつはかなりの手練れだな。1人だけ強さが抜きん出てる。なんなら勇者クラスの実力があるんじゃないか?」
「…………ククっ」
白いフードの青年はその言葉に肩を小刻みに震わせた。
「うろたえる必要はない」
冒険者達のざわめきを掻き消すようにキールが言った。
ざわめく冒険者達を見渡し、誇らしげに胸を張って。
「なぜなら今回の攻略には、A級ダンジョンの攻略経験もあるこの私が諸君らと共に魔宮へと潜るからだ」
「A級ダンジョン攻略者!? こいつはすげぇや」
「キールさんがいてくれたら鬼に金棒だぜ!」
キールの言葉に冒険者達が沸き立つ。
キールは冒険者達の反応に満足げにうなずいて。
「そして今回のダンジョン攻略は通常の魔人討伐によるダンジョンの消滅が目的ではない。魔人を拘束し、魔宮をギルドの管理下に置くのが今回の任務だ」
キールは冒険者達に視線を切ると続ける。
「今や我々人類は魔人の影に怯える弱者ではない。飼い慣らす側なのだ。すでにいくつものダンジョンを制圧、管理し、魔宮生成物を冒険者に支給、販売する体制は整えられつつある」
キールがパチンと指を鳴らすと、酒場の奥から荷台が運ばれてきた。
その荷台に載せられていたのは、たくさんの木箱と小さな檻が1つ。
木箱にはたくさんの武具やガラス瓶に詰められたポーションが山積みになっている。
「私の権限で今回の任務のためにいくらか支給品を用意させてもらった。今回の任務に参加する者にはささやかながら餞別を送らせてもらおう」
キールが言うと冒険者達は目を輝かせて。。
「こんな大量のポーション見たことがねぇ。こんだけありゃ屋敷1つ建てられるぞ」
「武器もざっと見るにCクラス相当のものが混ざってる」
「キールさんはやっぱりすげぇや!」
冒険者達が支給品で盛り上がる中。
白いフードの青年は支給品には目もくれず、荷台に一緒に載せられている檻の方を見つめていて。
青年の視線に気付いてか、檻の中から赤く光る瞳が視線を返した。
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