#3 赤の勇者

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 永久魔宮の中は生温い空気に覆われていて。 無機質な紫色の壁面が続く通路の先から、湿り気を帯びた風が魔宮の奥から吹いた。 その風に乗って漂ってきたカビ臭さが鼻をつく。 「ついに魔宮に入れた!」  スカーレットが嬉しそうに言った。 「でも、浮かれすぎないようにね! 難度が低くてもここは魔宮。気を引き締めていきましょう!」 「ねぇちゃんが一番浮かれてるじゃん」  シアンが言った。 「なによ、愚弟は嬉しくないの?」 「俺も嬉しいよ。期待で心臓バクバク言ってる」 「でしょ!」 「おれは魔宮入るの初めてだからちょっと緊張しちゃうな」  アーシュはきょろきょろと視線を走らせる。 「アーシュガルド、しっかりしなさい。私達とパーティー組むんだから足を引っ張らないでよ」  スカーレットはアーシュに歩み寄るとその背中を叩いて。 「ま、何かあれば私達がフォローするから安心しなさい」  アーシュはスカーレットの言葉にうなずいた。 「スカーレット、これを」  ディアスは折り畳まれた魔宮の地図を取り出した。 「ありがとう、ディアスさん」  スカーレットは地図を受け取ると地図を広げた。 手のひら大の小さな地図に目を通して。 「オーケー」  スカーレットは地図をローブのポケットにしまうと、背中のボウガンを手に取って。 矢筒から矢を取るとボウガンに装填した。 それに続いてシアンが短槍を手に取る。 「さっき話した通りシアンが前衛、私が後衛、アーシュガルドは中衛で私の護衛を優先。私の指示で剣の投擲(とうてき)ね」 「了解、ねぇちゃん」  シアンは返事をしながら前へと出た。 「アーシュガルド、返事」 「はい!」  アーシュはスカーレットに答えると、右足の短剣を抜く。 「アーくんも2人も気を付けてね」  エミリアが言った。 「俺達2人は距離を取って後を追うが、手は貸さないものと思って慎重に行動してくれ」  ディアスが言うとスカーレットとシアンがうなずいた。 遅れてアーシュもディアスにうなずく。  シアン、アーシュ、スカーレットが魔宮を進み、少し距離を置いてディアスとエミリアが続いた。 「まず最初の横道はスルー。魔物が飛び出してこないかだけ注意して」 「了解、ねぇちゃん」  槍を構えながら進むシアン。 その手が槍を強く握る。 「アーシュは援護の用意しといて」 「うん」  アーシュは周囲を警戒しながら、時折思い出したかのように腰と右足の短剣の操作を行っていた。 そちらに意識を集中しすぎないよう注意する。  シアンは横道に差し掛かると耳を澄ませて。 自身の息づかい。 アーシュ、スカーレットの足音。 反響混じりに微かに響くディアスとエミリアの足音を捉える。  そしてそれらの音に紛れてペタン、ペタンと跳ねる音。 その音は不規則に連なって瞬く間に大きくなる。 「来る!」  シアンは横道から大きく一歩下がった。 それと同時に小さな影が飛び出す。  シアンはすかさず槍を突き出した。 槍の切っ先が魔物を貫く。  貫かれた魔物はぶるぶると震えていて。 それは青い半透明の身体を持った小さな魔物。 大きさは人の頭ほどで、その魔物に目鼻や口はなかった。 「────スライム。レベル判定は4。最低難度の評価通り雑魚だなぁ。ケケケケ」  アムドゥスは額の瞳でスライムのステータスを読み取ると言った。 「だが得物の相性が良くないな」  ディアスは遠目にシアンの槍とスカーレットのボウガンを見て言った。  シアンの槍に貫かれたスライムは形を崩すと槍から逃れた。 どろどろに崩れた身体が再び丸い形を形成する。 「シアン! 突きは効果がない。斬擊に切り替えて!」  スカーレットが言った。 「わかってる!」  シアンは槍を振り上げて。 スライムを縦にまっぷたつに斬り裂いた。 さらに槍を返すと横薙(よこな)ぎに一振り。 十字に斬り裂かれたスライムの破片が通路に転がる。  スライムの破片はブクブクと泡立ちながら溶け崩れていく。  だが息つく間もなく別なスライムがシアンに(おど)りかかった。 先ほどのスライムよりも一回り大きな個体。  シアンは飛びかかるスライムを袈裟(けさ)に斬り伏せた。 破片の1つに槍を突き立てると、槍を振り下ろして叩きつけて。 すかさず刃を振り上げて斬り裂く。  シアンはもう一方の破片が再び形を形成しようとしているのを視界の隅に捉えると、すかさず槍を()いだ。  さらに迫り来るスライムを次々と斬り伏せる。 「これで終わりだ!」  シアンは最後のスライムを細切れにすると、アーシュとスカーレットに振り返って。 「ちょっと、結局俺1人で片付けたんだけど」  不満げな眼差しを向けるシアン。 「仕方ないじゃない! スライムにボウガンなんて撃っても効果ないでしょ!」 「属性矢使えば?」 「スライムにあんな高いの使えないわよ!」 「そりゃそうだ」  シアンは肩をすくめた。 「へー、スライムってあんな感じなんだ」  アーシュが呟いた。
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