#3 赤の勇者

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「スライム見るのも初めて?」  スカーレットの問いかけにアーシュはうなずいて。 「俺が見てきたのは獣型の魔物がほとんどだったから」 「スライムは知能も低くて攻撃手段も体当たりくらいで威力も乏しいから、斬擊で一定以下のサイズにまで斬り分けて倒すってのさえ覚えておけば脅威にはならないわ」  スカーレットはそう言うとシアンに視線を向けた。 「愚弟、次スライム出た時、数が少なかったらアーシュガルドに倒させるから。私が指示して前出させたらフォローしてあげて」 「了解、ねぇちゃん」 「てことでアーシュガルド、頑張りなさい」 「分かった」  アーシュがうなずく。 「じゃあ進みましょう。ゴー」 「はーい、ねぇちゃん」  シアンはスカーレットに答えると再び前進して。 脇道の先にスライムの残りがいない事を確認すると手振りてスカーレットに伝えた。 ぐずぐずに溶け崩れたスライムの残骸の上を進む。  アーシュはスライムの残骸の上を恐る恐る歩いて越えた。 そのあとをスカーレットが続く。 「次の分かれ道を右。それでしばらく進んだら左手に階段が現れるからその階段を進んで!」  スカーレットは記憶した地図を頭の中に思い浮かべながら指示を出した。 「了解、ねぇちゃん」  3人は通路を進み、分かれ道に差し掛かった。 「愚弟は右、アーシュガルドは左を確認して」  スカーレットの指示に従い、アーシュは前に出て。 シアンが目配せするとアーシュとシアンは同時に通路の先を確認する。  右の通路に魔物の影はなかった。 「こっちはいないよ。そっちは?」  シアンが背後のアーシュに()いた。 「いた! 遠くに2体見える!」  アーシュが叫んだ。 その通路の先にはスライムが2体、跳ね回っている。 「距離は?」  スカーレットが(たず)ねた。 「結構遠く! 倒す?」  アーシュが()くと、シアンは後ろを振り返った。 通路の先のスライムを捉えて。 「30メーター。あっちはこっちに気づいてない」 「その先は広間になってるし、他の魔物もいるかもしれない。気付いてないようならスルーしてきましょう」 「了解、ねぇちゃん。アーシュガルドくん、あの2体はスルーしてくよ」 「わかった」  シアンが右の通路へ進んだ。 そのすぐ後をアーシュ、少し離れてスカーレットが進む。 「アーシュが少し前過ぎるな」  通路を曲がっていく3人を見てディアスが呟いた。  シアン、アーシュ、スカーレットの3人は黙々と通路を進む。 そしてシアンは左手に階段を発見して。  シアンは手振りで階段があった事を示した。 それを見てスカーレットは首をかしげる。 「え、もう階段?」  スカーレットは地図を取り出すと確認した。 「あれ、ねぇちゃん道間違えた?」  シアンが(たず)ねるとスカーレットは首を左右に振って。 「いいえ、合ってるわ。…………魔物は?」  スカーレットが地図をしまいながら()く。  シアンは階段を覗き込んで。 覗いた先には下へと続くなだらかな階段。 シアンは階段の先へと視線を向け、魔物の姿が無いのを確認して。 「魔物の姿はないよ」 「了解。進みましょう」  シアンはうなずくと階段を下る。 そのぴったり後ろをアーシュがついていった。  スカーレットは階段に消えた2人を追って足早に通路を進んだ。 そして階段の入口に差し掛かったところで、ジャリっと音がして。  スカーレットが怪訝(けげん)な面持ちで足元を見ると、魔宮の壁面と同じ無機質な紫色の欠片が散らばっていた。 「なにこれ…………」  そしてスカーレットは、階段の先へと視線を向けて。 だが見上げた先には、天井。 その視線を下げると、階段を下るシアンとアーシュの姿が。 その2人の姿を見て、スカーレットは言う。 「────え。なんで階段、降りてるの(・・・・・)?」  地図に記されていた階段は上り。 今、目の前にしている階段は存在しないはずで。  シアンはスカーレットの言葉に一瞬息が止まった。 鼓動が跳ね上がる。 冷や汗が吹き出す。 振り向き様にシアンが叫ぶ。 「アーシュガルドくん! 戻って!」 ────その時、足元から鈍い音がして。 シアンの右足が突如その支えを失った。  シアンが視線を下げると、階段が自身を中心に崩落。 崩れ落ちる階段の轟音と共に。 瞬く間にシアンが、そしてアーシュが宙に投げ出される。 「シアン! アーシュガルド!」  スカーレットが階段を駆け降りて手を伸ばすが、その手は空を切った。 そしてスカーレットもまた階段の崩落に巻き込まれて落下する。  そして魔宮の壁面から床板が突き出すと、階段のあった場所を覆った。 ディアス達が駆けつけた頃には隙間なく新たな床が形成され、残されたのは行き止まりの通路だけ。  魔宮は3人を飲み込むと再び静寂を取り戻す。
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