#3 赤の勇者

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 アムドゥスはエミリアのフードから飛び出すと、横たわるディアスの胸に飛び乗って。 「よう、ブラザー。すまねぇがお前さんとは契約解消だ。俺は嬢ちゃんに乗り換える。そしてお前さんの魔結晶(アニマ)を使って俺様が赤の勇者サマと渡り合う。その隙に嬢ちゃんが逃げる。異論はあるか?」 「らしくないな、アムドゥス」 「ケケ、なにがだぁ? 魔物である俺様が義理や人情を重んじるとでも思ってたか? 俺様とお前さんはビジネスライクのドライな関係だ。お前さんもそう言ってたろうが」 「だからだ。ネバロの魔結晶(アニマ)を失い、お前も死んで。それでお前になんの益があるんだ?」 「アムドゥスも死ぬ? ディアスだけじゃなく、アムドゥスまでいなくなっちゃうの? そんなのもっとダメだよ!」  エミリアはアムドゥスを抱き抱え、ディアスにしがみついた。 白髪の隙間から覗く赤い瞳から涙がこぼれる。  フリードはアムドゥスの姿を捉えると老婆や巨漢の男に振り返って。 「魔物が出てきたけど、あれでも魔人じゃないって言うわけ?」  フリードは2人の返答を待たずにディアス達のいる広間の方へと歩き始めた。 「待ちな。フリード」  巨漢の男が言った。 フリードは肩越しに振り返ると巨漢の男を睨む。 「魔人は野放しにできない」 「わかってるさ」  巨漢の男はフリードの肩を掴むとフリードを押し退()け、その前へと出て。 「その剣、握ってるだけでも大きく消耗するんだろ。フリードは休んでな。そのための俺だ」 「そーですよー。私達はこのあとぉ、森の永久魔宮の異変とー、突然展開域を大幅に拡大した赤蕀の魔宮の調査があるんですぅ。フリードさんは休まなきゃダーメ、ですよ?」  栗色の髪の女性が言った。 「わかった。任せる」  フリードはそう言うと剣を再び背負った。  巨漢の男はディアス達に向かってずんずんと歩いていく。   通路を進むと2匹のスライム。 先ほどすれ違った際にエミリアに気付き、エミリアのいる方へと跳ねながら移動していて。 「邪魔だよ、雑魚」  巨漢の男は拳を振り抜いた。 レベルが低いとはいえ物理攻撃に対して耐性の高い種族であるはずのスライムが、男の拳を受けて四散。 瞬く間に泡となって溶け崩れる。  巨漢が広間に踏み込むと、エミリアは顔を上げた。 赤く光る目が巨漢の男を睨む。  巨漢の男はエミリアの赤い目に気付いて。 「はっ。ほんとに魔人か」  巨漢の男はそう言うと(さげす)むような目でエミリアを見る。 「今まで何人殺した? 楽しかったか」  巨漢の男は腰に鎖で吊り下げた下げた巨大な手甲を両腕にはめて。 「今まで何人喰った? 美味かったか」  巨漢の男が歩を進める度に手甲から垂れ下がる太い鎖がジャラジャラと音を立てる。 「報いの時だぜ。人の皮を被った化け物め」  エミリアは答えない。 だがその目に灯す赤の輝きが強く燃え上がる。 「やめときな、嬢ちゃん。お前さんが敵う相手じゃねぇ」 「じゃあ、どうするの? ディアスを殺して、アムドゥスを置き去りにしてあたしだけ逃げろって言うの? そんなの、あたしは耐えられない」  エミリアは立ち上がった。 荷物をおろして身軽になる。 「あたしはやっぱり良い子じゃない────」  エミリアの目の輝きがさらに強まる。 「ディアスとアムドゥスが死ぬ事よりも、あたし自身が死ぬよりも、あたしは独りで取り残されるかもしれない事の方が恐い。独りで眠る夜を思うと恐くて恐くてたまらない。不安で押し潰されそうになる」  エミリアはディアスとアムドゥスを(かば)うように巨漢の男に立ちはだかる。 「冷たい夜はもう嫌。だから、あたしはあたしのために、あたしが出来る事をするの……!」  エミリアは駆け出すと巨漢の男に(おど)りかかった。 その手に青のハルバードを召喚し、力いっぱい振り下ろす。  巨漢の男は振り下ろされた斧槍(ふそう)の一撃を手甲で容易く受け止め、払いのけた。  エミリアは空中で身をひるがえすと急降下。 着地と同時に魔宮を展開する。 「顕現して、あたしの『在りし日の咆哮(シャルフリヒター)』……!!」  展開される小さな円形の石畳の魔宮。 そしてエミリアの影がみるみる形を変え、実体を伴って。 現れたのは牡牛(おうし)の頭を持つ巨大な魔物。 その両手には分厚い刃の戦斧(せんぷ)を握り締めていた。 シャルと呼ばれるその魔物は巨漢の男に向けて咆哮する。 「はっ。ずいぶん非力そうなのが出てきたな」  自身の身の丈よりも遥かに大きなその姿を前に。 だが巨漢の男は鼻で笑うと手甲を(まと)った拳を構えた。
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