#3 赤の勇者

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 (ひづめ)が石畳を踏みしめて。 シャルは戦斧(せんぷ)を大きく振り下ろした。 巨漢の男に迫る重厚な刃。 それと同時にエミリアも体をよじり、ハルバードを()ぐ。  巨漢の男は迫り来る刃を手甲で受け止めた。 右腕でシャルの戦斧(せんぷ)を受け止めるとその刃をいなして。 同時に左腕でエミリアのハルバードを受け止めると、腕を払ってエミリアを吹き飛ばす。  巨漢の男はシャルへと肉薄。 ()いで右の拳を打ち付けた。 シャルの下顎への一撃。 左の脇を締めながら再び右のジャブ。  そして鋭い踏み込み。 踏みしめられた石畳に亀裂が走って。 男は腰をよじり、体をひねって左腕を突き出した。 放たれた一撃はシャルの巨体を浮かび上がらせ、後方に押し飛ばす。 「おら!」  巨漢の男は追撃の手を緩めない。 両腕を振ると手甲から伸びる左右の鎖が大きくしなって。 その鎖はシャルの片腕に、そして首筋へと巻き付いた。 後方に押し飛ばしたその巨体を鎖で引き寄せると再びその拳がシャルを打ち付ける。  吹き飛ばされたエミリアはすかさずハルバードを石畳に突き立てて勢いを殺すが、顔を上げた時にはシャルは男の無数の拳を受けた後で。  シャルは膝を折って崩れ落ちる。  巨漢の男はエミリアへと振り返った。 エミリアと巨漢の男の視線が交わって。  ()いでエミリアの身体に走る強い衝撃。 エミリアは気づけば男の拳を受けて後方へと吹き飛ばされる。 「────その忌々(いまいま)しい目で見てんじゃねぇよ、魔人」  エミリアの頭上から巨漢の男の声。 男は一瞬の間に殴り飛ばしたエミリアの頭上へと移動していて。 男がさらに拳を振り下ろし、エミリアの身体は石畳へと正面から叩きつけられる。  エミリアは苦悶(くもん)の声を漏らした。 両腕で身体を支えて起き上がろうとするが、その頭に巨漢の男は背後から足を添えて。 ()いでその頭を踏みつける。  ゴンと鈍い音が響いた。  巨漢の男は足をどけるとその場に屈み込んで。 エミリアの頭を鷲掴(わしづか)みにすると再びその顔を石畳へと叩きつける。  巨漢の男はエミリアを持ち上げた。 見るとエミリアの額と鼻、口許(くちもと)から血がだらだらと流れ出ていて。 口を開けると折れた歯がポロポロと落ちる。 「エミリア……!」  ディアスは折れた剣で身体を支えながら顔を上げた。 巨漢の男はディアスの顔を半眼で見る。 男はディアスの赤く光る瞳を捉えて。 「はっ。フリードの言う通りか。ソードアーツを使う魔人てのは初めて見たぜ」  巨漢の男はエミリアへと視線を戻した。  刹那、男の顔目掛けて青い影が閃いて。 エミリアがハルバードを振るう。  男はエミリアの腕を掴んで止めると、その腕をへし折った。 エミリアの手からハルバードが滑り落ち、大きくよじれた片腕が力なく垂れ下がる。 「独りが恐いって言ったか? 安心しろよ。お前を(ほふ)ったらすぐにもう1人の魔人と魔物もあの世に送ってやる。そこで仲良くお前らが喰い殺した人達に詫びな」 「…………待っ、へ」  エミリアが声をあげるが、その発音は不明瞭だった。 それでも精一杯エミリアは声を張り上げる。 「あたひ、は、たくさん人を喰った。その償ひ、を受ける。でも、ディアスは違ふ。違、うの」 「何が違うのかもわからねぇし…………償いねぇ。逆にお前は償えると思ってんのか。今までお前が喰った命の償いをお前の命1つで? 無理だぜ?」  巨漢の男は鼻で笑って。 「お前らの死は報いだ。だが償いにはならねぇよ。俺がお前らを(ほふ)るのはこれ以上の犠牲者を出さないためだ。お前ら魔人ができる償いなんか有りはしねぇよ」  エミリアは男の腕に手を伸ばした。 必死にその腕を掴んで。 「ディアスは人を喰っれ、ない。1度も。冒険者として、たくさんの人を、助けへきたの」  エミリアは必死に訴える。 「だから、お願ひ。ディアスを、殺さなひで…………」  巨漢の男はエミリアを見つめている。 「お願、い」  エミリアが言うと巨漢の男はエミリアをディアスの方へと投げ飛ばした。 「おい魔人」  巨漢の男はディアスを見ながら言う。 「人喰いをしていない正義の魔人だって? 冒険者として人助けしてきたんだって? ならその人喰いの魔人をお前が処分しろよ」 「…………」  ディアスは答えない。  ディアスは折れた剣を置いた。 背中から別な剣を抜くと切っ先を魔宮の床に突き立てて。 身体を支えて立ち上がる。  ディアスは剣を支えにしながらエミリアに歩み寄る。
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