#3 赤の勇者

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「ごめんな、さい」  エミリアが言った。 「エミリアが謝る必要はない」 「ごめんなさひ」  エミリアは続ける。 「ディアスはあたひを、助けてくれたのに。あたし、は何も、何もディアスに返せなかっ、た」  エミリアはアムドゥスに視線を移して。 「アムドゥスも、ごめんね」 「ケケケ、何謝ってんだ? まだ間に合うぜ? 俺様と契約すりゃまだ嬢ちゃんは助けられる」 「でも……それっへ、ディアスもアムドゥスも、死ぬんでしょ? わがままなのは分かってる。でも、あたしは生きたい。ディアスと、アムドゥスと、あとアーくんも入れて、みんなでいたいよ」  エミリアは泣きながらディアスに訴える。  ディアスはフリードを見た。 フリード達は広間の入口へと移動していて。 フリードはディアスの視線をまっすぐに返す。 「エミリアは魔人堕ちだ」  ディアスがフリードに言う。 「キール・クロスブライト。この男を知っているか? ギルドで一定の権限を持った、エミリアの魔人飼い(オーナー)だった男だ」 フリードはディアスの言葉に答えない。 ただ猛禽類(もうきんるい)のような鋭い目でディアスを見つめる。 「エミリアはその男に魔人堕ちにされた。本来なんの罪もないただの少女だ」  巨漢の男はディアスの言葉に鼻で笑った。 「はっ。なんの罪もない? 人喰いしといてか? その小娘が生まれながらの魔人だろうと、魔人堕ちだろうと関係ねぇよ。むしろ望まねぇで堕ちたんなら、今はそのキールてやつの支配下にねぇんだろ? なら人喰いなんてしてねぇで自害すんのが筋じゃねぇか」 「…………キール・クロスブライト。クロスブライト家の現当主。中位管理権限を持ち、大きな派閥の傘下ですが黒い噂も絶えない男です」  眼鏡の青年が言った。 「知ってるよ。お前は『深き底まで見通す眼(サーベランス)』に集中してな」  フリードはディアスから視線を外さずに眼鏡の青年に答えた。 「…………ディアスって言ったか。お前も魔人堕ちか?」  フリードの問いにディアスは少し思案するとうなずいた。 「ふーむ。で、自分は人喰いをしていない魔人堕ちで、そっちの女の子は(おとし)められて魔人堕ちになったから見逃せって?」  フリードは頭をバリバリと()いて。 「クリフトフ(・・・・・)なんて名前を使ったりした辺り、バッジも本物でお前も元冒険者なんだろ。なら冒険者(俺達)の考え方も分かってるだろ」 「……ああ、分かってるさ」  ディアスは苦々しく呟いた。 「話が本当なら可哀想だとは思う。だが人喰いの魔人を見逃すわけにはいかねぇ。魔人飼いも俺達は賛同してねぇしな。結局その魔人を生かすために人を喰わすやり方は納得がいかねぇんだ」  巨漢の男はフリードの言葉にうなずいて。 「そういうわけだ。ホントかどうかは知らねぇが、もういたぶるような真似はしねぇよ。一撃で楽にしてやる」  巨漢の男は手甲を(まと)った拳を振りかざした。 「赤の勇者フリード!」  巨漢の男を遮って、ディアスが叫んだ。 ディアスはフリードに問う。 「それが、勇者の1人として(うた)われたお前の正義か」 「俺は勇者が正義の味方だとは思ってねぇがな。しょせんは称号。しょせんは肩書き。(いちじる)しい活躍を見せた冒険者に与えられる強さの証明だ。だがあえて俺は言おう。これが、俺達の正義だ」  フリードはまっすぐにディアスを見据えて。 その仲間も同じようにまっすぐな眼差しでディアスを見つめる。 「ああ、そうか」  ディアスは呟いた。 「これが正義」  肩を落とし、目を伏せて。 「これが、勇者────」  ディアスは目を閉じると振り払うように(かぶり)を振った。 そしてその赤い眼を開いて。 炎のように赤い光がその瞳から溢れ出す。 「…………しろ。俺の、『千剣魔宮(インフェルノ・スパーダ)』」  小さくディアスは呟いた。 その全身から無数の剣が現れる。 「無茶だぜ、ブラザー。今のお前さんの力じゃ赤の勇者の前にあの男1人も倒せねぇぞ! それだけ能力に差があるんだ!」  アムドゥスが声をあげる。 だがディアスは答えない。 赤い瞳でフリードを睨み続ける。  たなびくように揺れる数多の刃。 その刃が生き物のように連なりながら地を這うと1つにより集まった。  ディアスは握っていた剣を投げ捨てて。 「だったら俺は魔人でいい」  ディアスが手をかざすと連なった剣の柱が渦を描いて開いた。 中から純白の大剣が姿を現す。  勇者の剣を具現したような荘厳(そうごん)な剣。  ディアスはその剣の柄を握った。 その手に力を込めて。 「俺はもう仲間を(うしな)うのは嫌だ。そのためなら俺はネバロ(あいつ)の言葉通り、魔王にだってなってやる」  その形相が鬼のように歪んで。 ディアスはその剣(・・・)を引き抜く────
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