#3 赤の勇者

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 ディアスは真白ノ刃匣(マシロノハゴウ)を振りかぶった。 ()いでその剣の魔力を再び解き放って。 「ソードアーツ『偽りと欺瞞の偶像(ブレイヴ・ディセプション)』!」  燦然(さんぜん)と光を放つ純白の刃。 ディアスは輝きを(たた)えた刃を投げ放つと操作して。 宙を舞う剣の白い軌跡が放たれた炎と(おど)りかかるフリードを阻むように交差した。 交わる光の軌跡が光の壁となる。  白炎の竜の炎を無力化する白い光の壁。 そしてフリードがその壁をすり抜けると、彼に付加されていたいくつものバフが消え去る。 「『その刃、疾風とならん(ソード・ガスト)』!」  ディアスは操作していた真白ノ刃匣(マシロノハゴウ)を射出した。 光を(まと)い、長大な剣はフリードとすれ違うように加速。  そしてディアスが視線を切ると、フリードの剣が眼前に迫っていた。 ディアスは10の剣を交差させ、フリードの攻撃を受け止めて。 ()いで剣を払い、フリードの剣を弾き返す。  そしてフリードのの背後で耳をつんざく咆哮。 ディアスの放った真白ノ刃匣(マシロノハゴウ)の切っ先が白炎の竜の心臓に突き刺さった。 「うそー」  栗色の髪の女性は驚きに大きく目を見開いて。 「あの魔物ってぇ、A難度のボスクラスなのにー。私のバフも全部ぅ、()き消されちゃったみたーい」    老婆は倒れる白炎の竜を見ると銀の双眸(そうぼう)を細めた。 ()いで杖を振りかざす。 「魔封じの剣とは厄介だね。手をお貸し」 「はぁい。スペルアーツ『魔象強化(オーバーラップ)』!」 「スペルアーツ『封印魔象(シール)』」  栗色の髪の女性のバフを受けて。 老婆の発動するスペルアーツの効果が何段階も高められた。 そして発動したスペルアーツは魔法陣と文字の羅列とが連なる鎖となって、白炎の竜に突き刺さる真白ノ刃匣(マシロノハゴウ)を縛る。  フリードは弾かれた剣を再び振り下ろした。  ディアスは剣を操ると5本の剣でその一撃をいなし、5本の剣でフリードへと攻撃。 放たれる剣はフリードの左右から。 前後から。 頭上から。 同時に剣が振るわれる。 「周囲は任せた!」  フリードは叫ぶと大きく剣を振りかぶった。 腰を落とし、身体をよじるフリード。 獣のように鋭い黄色の瞳は正面だけを捉えて。 その全身に力を蓄える。 「スペルアーツ『魔象強化(オーバーラップ)』!」 「スペルアーツ『防御魔象(バリア)』」  栗色の髪の女性と老婆がスペルアーツを唱えた。 フリードの背後に魔力で編まれた半球状の盾が現れる。  それと同時に地を踏み締める音。 巨漢の男は拳を振りかぶりながら跳躍して。  『防御魔象(バリア)』が左右と背後から。 そして巨漢の男の振り抜いた拳が頭上からのディアスの剣を防いだ。  そしてフリードの姿はさながら1本の張り詰めた(つる)のようだった。 放たれる剣閃はそこから放たれる矢の如く。 全身の力を余すことなく連動し、増幅し、その刃に乗せて。 振り抜いた剣は正面から迫るディアスの剣を容易く払いのけ、音をも置き去りにする勢いでディアスに迫る。  ディアスは後ろに跳んで。 だがその回避よりも速くフリードの刃は肉薄する。 「『その刃、(ソード)熾烈なる旋風の如く(ヴォルテクス)』────」  ディアスは剣を手に取るとその剣を加速。 「『その刃、疾(ソード)風とならん(・ガスト)』!」  そしてその剣を握ったまま、さらに後方に加速。 ディアスはフリードの剣の直撃は回避した。 目の前をすれすれでフリードの剣の切っ先が通り過ぎる。  だが規格外のその一閃は衝撃波を巻き起こして。 剣の切っ先が横切ると、一拍の間をおいてディアスの体が後方へと吹き飛ばされる。 「ケケ! 馬鹿力が!」  アムドゥスの声がディアスの身体のどここらともなく響いてきた。  ディアスは空中で手繰(たぐ)るように手を引いた。 それに応えてディアスの剣は螺旋を描くように連なりながら彼のもとへ。  ディアスは空中で身をひるがえすと着地した。 その周囲を剣が旋回し、ダンジョンを削って剣に魔力を補充する。 「その目、今は魔人には見えないが」  フリードは剣を構えながらディアスを睨むと言った。 「冒険者だと言えば見逃してくれるか?」  ディアスは旋回する剣の中から2つの剣を手に取る。 「悪いがそれはできないな。お前が赤の光を目に宿していたのは事実だし、魔人なら到底見逃せないほどにお前は強すぎる」 「ククッ、だろうな。簡単に見逃してもらえるとは思ってないさ。だがお前はまだ本気を出してないよな?」  ディアスは未だに鞘に覆われたフリードの剣を見て言った。 「ああ、お前が俺の仲間や町の方向を常に背にしてるからな」
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