#3 赤の勇者

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 ディアスとフリードの(にら)み合い。    そしてその間にフリードの仲間は静かに位置取りを変え、フリードの援護の用意を整えていた。 ディアスはフリードを凝視したまま、視界の隅に映るフリードの仲間の動向に注意を払う。 「ブラザー、嬢ちゃんの魔力が減ってきてる」  アムドゥスの声がディアスの頭に響いて。 ディアスはそれを聞くとフリードに向けて、にやりと笑って見せた。 だがその額を冷や汗が伝う。  「ケケケ! まだまだ余裕だ、戦えます──てブラフを張るのもいいが、このあとどうするつもりだぁ? 時間はあまり残ってねぇぞ」 「わかってる」  ディアスは胸の奥で魔結晶(アニマ)が熱を帯び始めているのを感じていた。 「せいぜいあと2分ともたねぇぞ」 「わかってる」 「ネバロの魔結晶(アニマ)も活動を再開しようとしてるしよ」 「わかってる」 「…………ホントに分かってんのかぁ? お前さんが一時的に取り戻した白の勇者サマの力も使えるのは残り(わず)か。魔人ディアスの力じゃあの赤の勇者サマご一行には敵わねぇ。…………あの大剣以外にも俺様に隠してる力でもねぇとなぁ?」 「わかってるからごちゃごちゃ言うな。そんなに時間が気になるなら真白ノ刃匣(マシロノハゴウ)でお前ごと魔結晶(アニマ)を封じ込めてやろうか。エミリアの魔力消費も止まるぞ」 「ケケケ! やれるもんならやってみな。俺様がお前さんの欠損した身体を補ってやってんだ! 身体バラバラになっても戦うってんなら止めはしないぜぇ? ケケケケケ!」  ディアスはフリードから真白ノ刃匣(マシロノハゴウ)へと視線を向けた。 封印のスペルアーツによってがんじがらめにされた剣が、今も塵となって消えていく竜の心臓に突き立てられている。  その方向にフリードの仲間はいなかった。 町の方向とも違う。 「厄介だな」  ディアスが呟いた。 「…………なぜ堕ちた?」  フリードがディアスに()いた。 ディアスはフリードに視線を戻して。 「問答してる余裕はない。俺1人ならゆっくり相手してやっても良かったが、罠にかかった子供達にはおそらくあまり時間がないんだ」 「はっ。時間がない? こんな低レベルのスライムしか湧かないところでか? それで切羽詰まるようなら、なんでガキだけにパーティーなんて組ませた」  巨漢の男が言った。 「実力を見て問題ないと判断したからだ」 「じゃあ、何を焦ってやがる。かかったっていうトラップもよほど悪質でなきゃ命に別状はねぇだろ」 「お前は若輩(じゃくはい)の魔人の死因で冒険者による討伐、飢餓(きが)による永久魔宮化に()ぐものが何か知ってるか?」 「あ? それ以外の理由だと他の魔人か魔物に殺されたってとこだろ」 「そうだ。死因で3番目に多いのは魔物、それも自身の魔宮のスライムによるものだ」 「……なるほどのう」  老婆はディアスが言わんとしている事に気づくと呟いた。 「あれー? でもぉ、魔人に作られた魔物は魔人に絶対服従じゃないんですぅ?」  栗色の髪の女性が言った。 「主である魔人の力量が魔物に見合わない場合にな、その度合いが大きいほど魔物はそのコントロールから逃れやすくなるという性質があるんじゃよ」  老婆は栗色の髪の女性に答える。 「はっ。それとなんの関係がある?」  「重要なのはなんでスライムの能力がそこまで高まるか、じゃ」  老婆は巨漢の男に言った。 「なるほど。お前が危惧(きぐ)してるのはそれか」  フリードもディアスの考えを察して。 フリードは眼鏡の青年へと顔を向けた。 「解析まだか」 「もう終わります……!」  眼鏡の青年は視界を取り戻した。 おびただしい量の情報の奔流(ほんりゅう)を処理し、それを表示する  青い光が宙を走り、立体的に魔宮の構造を映し出した。 「『生者の標(シーク)』」  ()いで青年は魔宮内の、魔人と魔物を除く生物の位置を特定するスキルを発動した。 「僕達以外に生体反応3。ここのすぐ下付近にある通路の先です」 「了解。最短ルートを割り出してくれ」  フリードはそう言うとディアスに視線を戻した。 「んで、お前の見立ては?」  フリードの問いにディアスは答える。 「俺の読みではキング」 「スライムキングか。そりゃ駆け出しには始末できないだろうな」 「だからお前達にはできればこれ以上邪魔してもらいたくない。もし助けが必要な冒険者がいると分かった上で俺の邪魔をするなら、お前達は俺が全員斬り伏せる」  ディアスの周囲を旋回する剣が、威嚇するように甲高い音を立てて魔宮の床を削った。  フリードは無言でディアスを見つめて。
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