#3 赤の勇者

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────そこで目にしたのは巨大な。 「スライム?」  アーシュは目を見開いて。 「あれ、スライムなの?」 「スライムの上位種、なのかしら。でもあんなの私も知らない……!」  スカーレットは(かぶり)を振った。 「ねぇちゃん、どうするあれ」  シアンが()いた。  3人は大きな広間に通じる通路から、その部屋の主を見上げていて。 そこにいたのは宙に浮かぶ、巨大な王冠。 半透明の身体を持ったそれは、その表面を波打たせながらゆったりと上下に揺れていた。 巨大なわっか状に連なった身体の上部には大きな突起が連なり、その先端は黄金色に染まって楕円形に固まっている。  その周囲には大小無数、色とりどりのスライムが形を変えながら宙に漂っていた。  浮かぶスライムの中から、時折大きく変形する個体がいて。 そのスライムは細長い突起を伸ばし、その先端が肥大していくと最後に肥大した部分が破裂。 そのスライムと同じ色をした粉末が辺りに立ち込める。  アーシュ達が呆気にとられていると、宙に浮かぶ巨大なスライムが突如大きく波打った。 激しく身体を揺らしながら明滅する。  すると周囲のスライムの動きがぴたりと止まって。 「…………ねぇちゃん、これってヤバいんじゃない?」 「言わなくてもヤバいの分かるでしょ。この愚弟」  静止するスライムの群れ。 ()いでその身体がドサドサと落下した。 床に叩きつけられた身体が潰れて。 だがすぐに元に戻ると、アーシュ達に向かってくる。 「ねぇちゃん!」  シアンが指示を仰いだ。 スカーレットは背後の通路へと振り返って。 次いで再び迫り来るスライムへと視線を向ける。 「…………陣形組んで」  スカーレットはボウガンにつがえた矢を取り外すと、矢筒から青い矢を取り出した。 その矢をボウガンにセットする。 「今来た通路は一本道の袋小路。そんなに距離もないし、固定の形を持たないスライム相手でこの物量が流れ込んできたら押し返せない。このまま広間に侵入して他の出口を探すわ」 「了解、ねぇちゃん」  シアンはすかさず槍を構えて。 「アーシュガルドくん、援護よろしく」 「わかった」  アーシュは短剣を鞘に納めると、愛用の剣を手に取った。 「数の不利は私が埋めるわ。私のとっておき、見せてあげる」  スカーレットは胸元を探ると、首から下げたペンダントをローブの下から取り出した。 そのペンダントには不気味な石が3つはまっていて。 「サモンアーツ『名も知らぬ剣士(ミーレス・スケレトゥス)』」  ペンダントの石が魔結晶(アニマ)だとアーシュが気付くのと同時に、スカーレットは魔結晶(アニマ)に魔力を流し込んだ。 現れたのは3体の朽ちかけた骸骨の魔物。 その手には刃こぼれした片刃の剣と小型の盾を持っている。 「スカーレットも魔人だったの?!」  アーシュが言うとスカーレットはアーシュを睨んで。 「そんなわけないでしょ。サモンアーツよ。召・喚・術!」 「姉弟2人で冒険者としてやってこれたのはねぇちゃんのこのサモンアーツのお陰もあるんだ」  シアンが言うとスカーレットはふふんと笑った。 「凄い! 詳しく聞きたい!」  アーシュが目を輝かせる。 「あとでね、アーシュガルド。じゃ、行くわよ。私の魔物が左右と後ろを固めるから2人は前を」 「了解、ねぇちゃん」 「わかった!」  シアンが槍を振りかぶりながら駆け出した。 アーシュがその1歩後ろから。 そしてその少し後ろをスカーレット。 スカーレットの左右と後ろに骸骨の兵士が続く。  シアンとアーシュは得物を振るってスライムを斬り裂いた。 だが上の通路で戦ったものとは比べ物にならないほどスライムは大きく。 2つに斬り裂いてもその大きさは人間の子供以上もある。 「倒す必要はない! そのまま走って!」  スカーレットが叫んだ。  アーシュ達はスライムの群れを()き分けて進む。    斬り裂かれたスライムは丸く形を取り戻すと、すかさずアーシュ達に突進。 その攻撃をスカーレットの召喚した骸骨兵士が盾で受け止めた。  アーシュ達は駆け抜けながら周囲に視線を走らせ、通路を探す。  その頭上では王冠のようなスライムが光を放ちながら、ゆっくりと旋回していた。 その身体が赤く発光すると周囲のスライムがその形を変えて。 丸い形をしていたスライム達が一斉に無数のトゲに覆われた形へと豹変(ひょうへん)。 その鋭い針は容易く骸骨の兵士の盾を貫通する。 「形状変化!?」  驚愕するスカーレット。 無数の針に覆われたスライムは骸骨の兵士を押し飛ばし、スカーレットに襲いかかる。
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