#1 最小展開域のダンジョンマスター (表紙あり)

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「その魔人はどんな性質のダンジョンを生成するんだ?」  冒険者が疑問を口にした。 それにキールは人差し指を立てて。 「具体的な内容は今は伏せさせてもらおう。その力のほどはダンジョン攻略の際にお見せしようではないか」 「キールさんもずいぶんもったいつけるじゃないか」  冒険者が冗談混じりに言う。  キールは(ほが)らかに笑いながら言う。 「いやはや申し訳ない。だが魔人を使役し魔宮の制圧に乗り出すという今回の攻略は未だかつてない新しい試みである。黒骨の魔宮が突如その拡大を止めて7年────」 「7年か、早いもんだなぁ。そして気付けば俺様達も名コンビだ。なぁディアス?」  ディアスの耳元で、フードに潜んだアムドゥスはそう言うとケケケと笑った。 だがディアスはアムドゥスに答えず、キールの方に視線を向けたままだった。  キールの話は続いて。 「他の5人の魔王が展開する魔宮は依然拡大を続けているが、黒骨の魔宮周辺のダンジョンはすでに掃討(そうとう)され、残ったダンジョンは全てギルドの管理下にある。時代は大きく動いている。人類は攻勢の時を迎えているのだ」  そこでキールは一度言葉を切った。 「……つい話が()れてしまったな。私が何を言いたいのかというと、今回の任務は人類の新しい門出(かどで)を盛大に演出する1つの余興(よきょう)だ。魔人と魔人の戦いはそのイベントの目玉になる。こちらの魔人の能力の秘匿(ひとく)はそれを少しでも楽しんでもらうための配慮だと思っていただきたい」  そう言って高らかに笑うキール。 だが冒険者の面々は顔を見合わせた。 「大丈夫なのか」 「……まぁ、キールさんが言うのなら、なぁ?」 「C難度のダンジョンなんていざとなればキールさんがどうにかしてくれるはずだしな」 「ポーションも山ほどある。致命傷さえ負わなければいいと思えば」  冒険者達はいぶかしみながらも、それ以上の追及は控えて。 「さて諸君」  キールはパンパンと手を叩いた。 「ここからはダンジョン攻略の詳細についての説明だ。攻略に参加する者は残ってくれ。ギルドマネージャーが今から作戦書を配る。……お前は中に戻れ」  魔人の少女はキールに言われるまま(おり)の中へと戻っていった。 「どうぞ、作戦書になります」  ギルドマネージャーが冒険者の一人一人に声をかけながら作戦書を配る。  ディアスもギルドマネージャーから作戦書を受け取り、手渡された作戦書に視線を落とした。 そして一通り読み終えたところで首をかしげる。 「難度C、ねぇ」 「────魔物、またスケルトンだ!」  冒険者の1人が叫んだ。  冒険者の視線の先には地面から()い出す白骨の姿があった。 次々と土造りの床から突き出る腕。 湿り気を帯びた土から、通路を埋め尽くすほどの骸骨がゆったりと体を起こす。 「(ひる)むな! 観測隊の報告によればこの通路の先が魔宮の最深部だ」 「補給班、ポーションの残量は」 「残り72本。全然余裕っす!」 「よし! このまま突っ切るぞ」 「サポートは任せてちょうだい」  冒険者の一団は迫り来るスケルトンの群れと対峙(たいじ)して。 「ふむ、ここを突破すれば、いよいよお前の出番だ。しっかり働けよ」  キールが連れている魔人の少女に言った。  キールは先陣を切る冒険者達の奮闘を後ろで眺めていて。 片手を腰に差した剣の柄に置き、もう片方の手には魔人の少女の首輪に繋がる鎖を握っている。 「この任務が成功すれば私はより高い地位を築くことができる。そうすればこんなジメジメした穴蔵や罠だらけの迷宮なんぞとはおさらばだ」  キールは吐き捨てるように言った。 鎖を握る手に力がこもる。  そしてついに通路にひしめいていたスケルトンを蹴散らし、冒険者の一団はダンジョンの最新部にたどり着いた。 そこは広い円形の空間で、その中心には通常のスケルトンの3倍はあろうかというを巨大な赤い骸骨がたたずんでいて。 赤いスケルトンの右手にはその身の丈に見合う長大な剣が握られている。 「まさか冒険者がここまでくるとはな」 赤いスケルトンの左手の上に腰かけていた男が言った。 ()だるげな眼差しを冒険者に向けるその瞳は赤く発光している。
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