#3 赤の勇者

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「少しだけだけどエミリアの生い立ちはディアスさんがフリードさんに話してたの聞いたし、アーシュには魔宮で借りがある。私達姉弟(きょうだい)だけだったらフリードさんが来る前にやられてたと思うもの」  スカーレットはそこで言葉を止めて、アーシュを指差して続ける。 「でもアーシュガルドも私達に貸しだからね。逆にアーシュガルド1人でも切り抜けられたとは思えないし」 「うん。スカーレットねぇちゃんとシアンにいちゃんが一緒で良かったと思ってる!」 「で、でしょ」  アーシュの素直な言葉にスカーレットは少し照れる。 「ねぇちゃんもこれくらい素直だったらなぁ」  シアンが呟いた。 「……まぁだから私達はその貸し1つ、ここで返そうってわけ」  スカーレットが言うと、シアンがうなずく。 「あ、ちなみに成功したら、後で冒険者にはディアスさんに脅されてたって言うから。その辺は怒んないでね、アーシュガルドくん」 「魔人の逃亡を手引きしてお尋ね者、なんて御免だもの。オーケー? アーシュガルド」  シアンとスカーレットが言った。 「あくまで私達が手を貸すのはアーシュガルド、あなた。私達は魔人を普通には受け入れられないし、魔人を処刑するのもギルドの管理下に置くのも仕方ないと思ってる。生い立ちはどうあれ、やっぱり人喰いの化け物に結果としてなってしまってるんだもの」  スカーレットの言葉にアーシュはむっとして。 「ディアスにいちゃんは人喰いなんてしてない。エミリアも…………望んでそうなったわけじゃないよ」 「わかってる。一応わかってるつもりよ。だからアーシュガルドに、手を貸すの。魔人が捕まってて、その生い立ちを聞いても同情はいくらかしても助け出そうとは思わないだろうけどね」 「アーシュガルドくんは2人とは結構付き合い長いの?」  シアンの問いにアーシュは首を左右に振って。 「ううん、まだ数日だよ。シアンにいちゃん達と会う1日前に森で助けてくれたのが最初」 「嘘でしょ、アーシュガルド」  スカーレットは絶句する。 「アーシュガルドくん、よく周りから騙されてない? 大丈夫?」  シアンが心配そうに言った。 「よくそんなすぐに魔人を信用できたわね。素直なのがあなたの長所かも知れないけど、ちょっとそれは異常よ」  スカーレットは怪訝(けげん)な面持ちを浮かべる。 「おれのお母さんも魔人堕ちだったから、良い魔人もいるんだっておれは知ってたんだ」 「魔人堕ち……だったの?」  シアンが()いた。 「うん。おれのお父さんとお母さんは冒険者だったんだけど、魔物に襲われたおれとお父さんを助けるためにお母さんは魔人堕ちしたんだ」 「そう…………」  スカーレットは小さく呟いた。 「それで、お母さんとお父さんは?」 「シアン────」  シアンの問いをスカーレットが遮ろうとしたが、それより早くアーシュが答える。 「お母さんは永久魔宮化して、お父さんはそれに巻き込まれちゃった」  アーシュが答えるとスカーレットとシアンは、しばし言葉を失って。 「この愚弟」 「ごめん、ねぇちゃん」  スカーレットは謝るシアンを睨むとアーシュへと視線を向けて。 「寂しくなかった?」 「うん。お父さんとお母さんとパーティーを組んでたおじさんがそこの守衛になっておれの事気にかけてくれてたし、村で飼ってる動物とかと遊んでたから寂しくなかったよ」 「そう。同じ年頃の子はいなかったのね」 「ううん。いたけど仲良くはなかったんだ。おれが冒険者になるって言ったら皆、馬鹿にしてくるし。でもディアスにいちゃん達と会った日に2人死んじゃった、魔物に襲われて。いっつもからかってくるから好きじゃなかったけど、死んでほしいなんて思った事無かったから、その時はすごい悲しかった」 「……ねぇちゃん?」 「ごめん、私も失言だったわ」  スカーレットはいたたまれなくなって視線を逸らした。 ()いで大きく深呼吸すると振り返って。 「………………」 「ねぇちゃん、言葉出てきてないじゃん」 「うっさいわね。えーと……とにかく今はエミリアを助け出すわよ!」 「その話、詳しく聞かせてもらいましょうか?」  アーシュ、スカーレット、シアンの3人は声のした方を振り返った。 その先にはエミリアの護送を依頼された冒険者が岩陰から現れて。  さらに3人の背後からも別な冒険者。 アーシュ達は抵抗する間もなく拘束される。  エミリアは白い(おり)の中から拘束されて引きずられてくる3人を見て。 「えー、あの2人も? アーくん、やっぱりダメだったじゃん」  エミリアは(あき)れたように言った。 「────ブラザー、もうそろだぜ?」  どこからともなくアムドゥスの声。 「ああ」  頭に響いた声にディアスは短く答えて。 ディアスとアムドゥスは2日ぶりに言葉をかわした。 「なんだ独り言か?」  巨漢の男が言った。 男にはアムドゥスの声は届いていない。 「さぁな」  ディアスはそっぽを向いた。 白い檻の中から外を眺めて。  そこはアーシュの村だった。 すでに村民は避難を終え、今はフリード一向の魔宮調査の拠点になっている。
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