#3 赤の勇者

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「おー、よしよし」  エミリアが背伸びしてアーシュの頭を撫でた。 「ブラザー、身体は無事かぁ?」  アムドゥスが()いた。 「ああ。問題ない」 「身体の6割が魔宮化しててよく言えるな。ケケケケケ」 「6割……?」  エミリアが振り返った。 「ケケケ、あんな強引な手を使えばこうもなる。魔封じの剣のスペルアーツによる魔力喰らいと自食による魔力の補給のせめぎ合いだぁ。結果は魔封じの剣が勝って一時的にその力を封じ込めたが、その過程で自食の進行が爆発的に進んじまったのよ」  アムドゥスはやれやれと肩をすくめて。 「あのピンチを生きたまま切り抜けられたのは称賛するが、もう先は長くねぇぞ。俺様はこのまま嬢ちゃんと契約を続行させてもらうぜ」 「エミリアはそれで大丈夫か?」  ディアスが()いた。 「え、あたしは別に構わないけど」 「そうか。悪いな、エミリア。アムドゥスも気を使わせたな」 「ケケケ、なんのことだぁ? 俺様は永久魔宮化したブラザーに縛られるのはごめんだと思ったから嬢ちゃんと契約を続行するんだぜ?」  アーシュはディアスのマントの裾を掴んで。 「ディアスにいちゃん、永久魔宮化しちゃうの?」 「いずれはな。まぁ、まだ先の話だ」  ディアスはアーシュの頭に手を伸ばすと、その頭をわしゃわしゃと撫でた。 「自食の範囲が拡大すればそれだけ補食のペースも上がる。今まで通りの進行速度とは思わないこったな」 「裏を返せば俺が使える魔力量が増えたとも言えるな」 「ケケ、前向きに捉えるならそうなるな。無論人間を喰わずに維持できる魔力量はたかが知れてるから魔宮の展開とかを視野に入れた調整はオススメしないが」 「わかってる」 「ケケ、ならいいが」  その時、ディアス達に向かってくる人影が2つ現れた。 1人は赤と白のローブを身に(まと)い、背中まである真っ赤な髪をポニーテールに結わえた少女。 もう1人は青を基調とした服の上に黒い軽鎧(けいがい)(まと)って、短く切り揃えられた青い髪をツンツンに逆立てた少年。 顔立ちがそっくりな2人はディアス達のもとへ。 「スカーレットねぇちゃんとシアンにいちゃんだ」  アーシュが言った。 「ふふん。私の機転の利いた演技、なかなかだったでしょ」  スカーレットが言った。 「大げさ過ぎて子供の演じる伝説語りみたいだったよ、ねぇちゃん」  シアンが言った。 「愚弟こそ酷い棒読みだったわよ」  スカーレットがシアンを睨む。 「ケケ、言うてどっちも酷かったが、ワーストはもう決まってるよなぁ?」  アムドゥスが言うと2人は魔物の姿に警戒心を(あらわ)にして。 だがチラリとディアスを盗み見る。 「戻ってきたんだ」  アーシュが言うとスカーレットは肩をすくめた。 「あのまま走って街までいくのは御免だったもの。武器もここに残してたし」  スカーレットは荷台の隅に積まれた自身のボウガンと矢筒、シアンの短槍を見る。 「私達はここで冒険者が戻ってくるのを待つわ。アーシュガルドとはここでお別れね」 「え、そうなの」 「ええ、そうよ」 「どうしても?」 「どうしてもよ。…………ちょっとアーシュガルド、そんな目で見ないでよ」  スカーレットは寂しげなアーシュの眼差しに耐えられずに目を逸らして。 「言ったでしょ。魔人と一緒になんて行動できない」 「それにねぇちゃんは街で治療を受けなきゃならないからね」  シアンが言った。 「そうゆうこと」  スカーレットは荷台の隅に腰かけると大きく息をついた。 「正直結構しんどいのよね。とてもじゃないけど今の状態でついていく気にはならないわ」  スカーレットはそう言うとうなだれる。 「いずれ冒険者達は援軍を率いて戻ってくると思います。ディアスさん達も行くなら早めの方がいいと思うよ」  シアンが言った。 「アーシュガルドはやっぱり魔人についていくの?」 「うん」  スカーレットの問いにアーシュは即答した。 「そう。せいぜい喰われないようにね」 「ディアスにいちゃんもエミリアもそんな事しないよ!」 「そう」 「さっきは助かったよ。2人のお陰で戦闘を避けられた」  ディアスがスカーレットとシアンに言った。 「私達はアーシュガルドの意思を尊重する。でももしアーシュガルドに何かあった時には、それを見逃した者の責任として私達があなた達を地の果てまでも追い詰めて討伐します」  スカーレットは顔を上げると、深い青の瞳でディアスを睨みながら言った。 ディアスはその視線を正面から受け止める。 「旅の無事を」  ディアスが言った。 ()いでディアスは荷台を降りると魔宮で無数の剣を展開。 真白ノ刃匣(マシロノハゴウ)がその刃に飲まれると姿を消す。  ディアスはそのまま街道を逸れ、獣道へと分け入っていく。 「どうしてあたしを助けようとしたの?」  エミリアがスカーレットに()いた。 「アーくんと一緒に捕まったのってあたしを助けようとしたからだよね」 「……答える前にいいかしら」  スカーレットはエミリアの方を振り向いて。 「その前髪、分けてもらえる?」 「ん? うん、いいけど」  エミリアは戸惑いながらも前髪をかき分けた。 白い前髪に隠れていた、たれ目がちのつぶらな瞳が現れる。  気恥ずかしそうに笑うエミリア。  その姿をまじまじと見つめてスカーレットがうなずいた。 「ほら可愛い。やっぱり私のアナライズに狂いはなったわ」  スカーレットが再度、満足げにうなずいた。 その様子に困惑するエミリアに続ける。 「言ったでしょ。私、可愛いものが好きなの。可愛いもの(アーシュガルド)可愛いもの(あなた)を助けたいって言うなら、助けるしかないじゃない?」
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