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「けけ、それが理由なの?」
「そうよ。私がアーシュガルドの手伝いをするって決めた最後の後押しがこれ」
「……ありがと」
「どういたしまして。まぁ……助け出す前に即行捕まったけど」
スカーレットは苦笑を漏らして。
「もう会うつもりはないけど、それでももし出会えたら。その時は私が髪を整えて、素敵なお洋服を見繕ってもっと可愛くしてあげるわ────」
スカーレットはアーシュを横目見て続ける。
「2人とも」
「けけけ。そっか2人ともか」
「ええ。2人ともよ」
「それは楽しみだね」
「もし会ったらの話だけどね」
「……じゃ、ばいばい」
エミリアは手を振ると、ディアスを追って駆け出した。
「じゃ、おれも行くね。また会おうね!」
アーシュはスカーレットとシアンに言うとエミリアに続いて駆け出した。
スカーレットとシアンは遠ざかる2人の背中を見つめて。
「アーシュガルドくん!」
その背中が小さくなった頃にシアンが叫んだ。
「アーくん、呼ばれてるよ?」
エミリアがアーシュの方を振り返ると、涙をこらえて目をうるうるさせているアーシュの顔が。
「アーシュガルドくん!」
シアンが再度叫んだ。
「答えないの?」
エミリアは足を止めて。
エミリアが聞くとアーシュは首を左右に振った。
「今振り返ったら、泣いちゃいそう」
「て言ってる間に泣いてる。アーくん、ほんと泣き虫だね」
エミリアはアーシュの頬にこぼれ落ちた涙を見て、困ったように笑う。
「だってぇ、守衛のおじさん以外に優しくしてくれた人全然いないから。短い間だったけど2人と冒険できたの楽しかったんだもん」
「そっかそっか。じゃあ寂しくなるね。でも大丈夫。また会えるよ、きっと」
エミリアが背伸びをしてアーシュの頭を撫でた。
「じゃあ、このままいこっか」
エミリアが言うとアーシュはうなずいた。
2人はまた駆け出す。
「アーシュガルドくん────」
シアンはさらに叫ぶ。
「剣と荷物、忘れてるよっ!!」
「え」
アーシュは立ち止まると、パンパンと体をはたきながら剣と鞄、袋を持っていないことを確認した。
次いでエミリアの方を見て。
「エミリア、お願い取ってきて」
「けけけけけ、涙の再会いってらっしゃーい」
エミリアがアーシュの背中を押した。
「うー」
アーシュは小さく唸って。
必死に涙をぬぐいながら駆け足で戻る。
「はいこれ────て、アーシュガルドくん泣いてるの?!」
シアンは泣き腫らしたアーシュの目を見て驚きを隠せない。
アーシュは鼻をすすりながら荷物を受け取った。
長剣を背中に背負い、腰に剣を差して。
小さな鞄と自身の腕が入った袋を肩にかける
「そんなに私達と別れるのが寂しかったの?」
スカーレットが訊くとアーシュはぶんぶんと縦に首を振った。
スカーレットはため息を漏らすと立ち上がった。
アーシュの前へと歩いて。
「アーシュガルド、なにも今生の別れってわけじゃないのよ。それに私達はこれからどんどん力をつけて活躍して名をあげるわ。ヴァイオレット姉弟の名を世に知らしめる。だからあなたも頑張りなさい」
スカーレットは握り拳でアーシュの胸をとんと押した。
「そうしていずれ高難度魔宮の攻略でマッチングしてシアンが前衛、あなたが中衛、私が後衛でまた魔宮攻略をしましょ」
スカーレットはにこりと笑って。
「アーシュガルド、返事」
「うん!」
アーシュは大きくうなずいた。
「ほら、行きなさい。追い付けなくなるわよ」
スカーレットに促されてアーシュはディアス達を追って駆け出した。
「アーシュガルドくん、またね」
シアンが手を振った。
アーシュは肩越しに振り返ると、シアンに手を振り返す。
アーシュの姿が完全に見えなくなると、スカーレットはゆっくりと腰をおろした。
「全く、アーシュガルドってば子供なんだから」
スカーレットは頬杖をついた。
「まぁ、私達と別れるのが寂しいだなんて悪い気はしなかったけど」
スカーレットはディアス達の消えた獣道へと視線を向けて。
「永久魔宮攻略では酷い目にあったけど、みんなで力を出しきって頑張って。【赤の勇者】フリードの剣も見れたし、今も体調は最悪だけど、悪くない経験よね」
スカーレットはしばらくしてまた呟く。
「それにしても冒険者達はいつ頃戻ってくるかしら。私達で馬車を走らせちゃいましょうか。……あら?」
スカーレットはふと荷馬車の隅に光る結晶に気付いた。
「何かしら、これ」
スカーレットはその結晶を手に取った。
親指の先ほどの小さな結晶。
だがその結晶の中で光の筋が何度も反射を繰り返している。
「アーシュガルドの落とし物かしら。ねぇ、シアン」
スカーレットの呼び掛けにシアンは答えない。
「ちょっと愚弟、返事ぐらいさなさいよ」
スカーレットがシアンの方を振り向いた。
その眼前には────逆さまの、顔。
能面のような、顔があった。
そしてその底無しのような深い、深い、真っ黒な瞳がスカーレットを見つめていて。
スカーレットは飛び退いた。
すかさずボウガンを手に取ると矢をつがえる。
能面のような顔をしたソレは、ギルドの制服を身に纏っていた。
背丈は180センチほどで体躯は普通。
ソレはギルドの紋章が刻まれたマントをはためかせ、目深に被ったフードからスカーレットを凝視していて。
無機質に透き通った結晶のような手で、シアンの顔を鷲掴みにしている。
「シアン!?」
スカーレットが叫んだ。
次いで能面のような顔目掛けてボウガンを放つ。
放たれた矢は風切りと共に真っ黒な瞳に突き刺さった。
ソレは大きく上体をのけ反らせて。
だがすぐに体勢を戻すと、不気味な声でスカーレットに笑いかけた。
「アハッ────」
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