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広間に続々となだれ込む冒険者達。
冒険者達は赤いスケルトンを取り囲んだ。
ディアスはスケルトンの背後の方へと回る。
そして最後尾からキールが悠々と歩みを進めて。
「ここまで来るとはな、だと? 実に白々しい」
キールはふんと鼻で笑うと続けて。
「道中のスケルトンの能力はこのダンジョンの規模に見合っていなかった。かといって途中にトラップやギミックの類いも無し。そして貴様の従えるその上位スケルトンの姿」
キールは値踏みするように赤いスケルトンを見上げる。
「おそらく貴様は『魔結晶』の大部分をそのスケルトンに割き、ダンジョンの最奥で疲弊した冒険者を待ち構えるスタイルなのだろ? 典型的なボス特化型のダンジョン構成だ」
「んー、半分正解。半分ハズレだね」
魔人はそう言ってスケルトンの手の上に起立。
周囲の冒険者を見回す。
「待ち構えるスタイルってのは正解。こっちから躍起になって狩りに行くのは正直ダルい。んで、ボス特化型ってのは間違い。俺のダンジョンに、ボスはいない」
魔人がニヤリと笑った。
それと同時に広間の床が大きく揺れ始める。
床が隆起し、そこから巨大な赤い手が次々に突き出してきた。
その手が冒険者をわしづかみにして。
「た、助け────」
次いで助けを求める冒険者をぐしゃりと握り潰す。
次々と床から姿を現す巨大な赤いスケルトン達。
スケルトンは冒険者を握り潰し、叩き潰し、踏み潰して。
応戦する冒険者の攻撃はまるで歯が立たない。
ディアスは自身に迫るスケルトンの腕を横に跳んで回避した。
四方八方から次々と襲い来るスケルトンの攻撃をすり抜け、他の冒険者を庇いながらもしきりに周囲を見回す。
魔人は防戦一方の冒険者達を半眼で見下ろして。
「ボスを持たないゆえに俗に言うボス部屋にリソースを割かなくていいのは大きな利点だ。その分を他にリソースが割けるからな」
魔人が言うと彼を乗せた赤いスケルトンの周りに、さらに7体の同じスケルトンが立ち並ぶ。
「こんな化けもんがボスじゃない? てことは無限に湧くっていうのか!?」
「これが難度C? 難度Aの間違いじゃないのか!?」
「に、逃げろっ!!」
冒険者達は圧倒的な実力差を前に完全に戦意を失っていた。
「C難度の雑魚に翻弄されおって」
キールは苛立たしげに呟くと、握った鎖をぐいと引いて。
「いけ、雑魚特化が相手とはおあつらえ向きだ。お前の力を見せてやれ」
そう言うと魔人の少女の首輪から鎖を外す。
魔人の少女はキールに向かって小さくうなずいた。
次いで虚ろな瞳で魔人を見上げる。
魔人はその視線に気づいて。
「もしやとは思ってたがその瞳……なるほど、飼われた魔人か。哀れなもんだな」
「……あなたも、すぐにそうなる」
魔人の少女が魔人へと言葉を返す。
魔人の少女は前へと歩み出た。
その瞳の輝きが強くなり、周囲の地面が波紋のように波打つ。
「顕現して、私の『在りし日の咆哮』」
魔人の少女の言葉と共に。
彼女を中心に周囲のダンジョンが上書きされた。
それは半径15メートルほどの石畳の空間。
その左右には禍々しい装飾の施された黒い燭台が紫の炎を灯す。
「あれが……ダンジョン?」
「あんな狭いのが?」
「最小とは聞いてたがこれは」
冒険者は新たに出現したダンジョンを見て思わず口々に呟いた。
「矮小な魔宮だな」
魔人はそのダンジョンの狭さに嘲笑して。
「そのダンジョンごと斬り伏せてやろう」
魔人が言うと、赤いスケルトンが一斉に魔人の少女を見て。
一様に剣を振りかざし、彼女目掛けて長大な剣が振り下ろされる。
その間際。
魔人の少女は手をかざした。
その手に青いハルバードを出現させると、両手でハルバードを振り上げる。
やつれた見た目の少女だが、その膂力はスケルトンを上回っていた。
甲高い音を立てて、スケルトンの剣を弾き返す。
魔人の少女はハルバードを振り上げた勢いを殺すことなく身をよじって。
彼女はハルバードを振り回しながら竜巻のように旋回。
スケルトンの攻撃を跳ね返し、いなし、時にかわして。
魔人の少女は1体のスケルトンの下に潜り込んだ。
次いでスケルトンの両足を大振りの一撃でたたっ斬る。
両足を砕かれた巨大な赤いスケルトンが姿勢を崩した。
膝と手をつき、頭を垂れる。
「やっちゃって、シャル」
魔人の少女の呟きと同時に、彼女の影が数倍に膨らんだ。
影は形を変えながら瞬く間に実体を持つと、体勢を崩したスケルトンの頭目掛けて戦斧を振り下ろす。
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