#4 不死身の魔人

2/43
前へ
/397ページ
次へ
 ディアスが焚き火の前にあぐらをかき、その上にエミリアが腰をおろして。 エミリアはディアスのマントにくるまると顔だけを出していた。 アーシュはディアスの隣で膝を抱えて丸くなり、ブカブカの外套(がいとう)の中に足をすっぽりと収めている。 そしてディアスの肩にはアムドゥスがとまっていた。 「……くしゅんっ」  アーシュがくしゃみをした。 ()いで数回鼻をすする。 「大丈夫か、アーシュ」  ディアスが()いた。 「うん。大丈ぶ……っくしゅ」  再びアーシュはくしゃみをして。 その様子を見ていたエミリアはおもむろに座る位置をずらした。 ディアスの片方の膝に移るとマントを広げ、パンパンと空いている方のディアスの膝を叩く。 「アーくん、おいで」  エミリアが再度ディアスの膝を叩いた。  ディアスはやれやれと肩をすくめる。 「え、いいよー」  アーシュが気恥ずかしそうに言った。  パンパン。 エミリアは無言でアーシュに来いと促す。  パンパンパン! エミリアはさらに強くディアスの膝を叩いた。 「……大丈夫」  アーシュが言うとエミリアはムッとして。 頬を膨らませてアーシュを睨んだ。    「ディアス」  エミリアがディアスに呼び掛けた。 ディアスは小さくため息を漏らすとアーシュに腕を回して。 ()いでその身体をひょいと持ち上げると空いた膝の上に座らせる。  エミリアはマントの裾を掴み、3人まとめてマントにくるまった。 「けけ」  エミリアが小さく笑う。 「…………重い」  エミリアの満足げな顔とは対照的に。 ディアスは少し顔をしかめて呟いた。 「ごめん、ディアスにいちゃん! すぐ降りるよ────」 「アーシュ」  ディアスは膝から降りようとしたアーシュの肩に手を回すと引き留めて。 「大丈夫だ。それに…………乗っていた方が、暖かい」  ディアスはアーシュから目を逸らしながら言った。 「けけ、あたしもアーくんが隣にいた方があったかいよ」 「うん。おれも…………今のがあったかい」  アーシュが小さく呟いた。 「だが狭いな」 「けけ、狭いね」 「やっぱり狭いよね」  ディアス、エミリア、アーシュが順に言った。 ぴったり身体を密着させてはいるが、マントの下から3人の足はほとんど出てしまっている。 「やっぱり おれ出ようか」  アーシュが言うとエミリアは頭をアーシュの胸に擦り付けて。 「このままでいいよ。ディアスもいいよね」 「…………ああ」  ディアスは2人の乗った膝の位置を少しずつずらしながら言った。 「…………」  また少し膝の位置をずらす。 「ケケケ、ブラザーも大変だな!」  アムドゥスがディアスの耳許(みみもと)で笑う。 「けけ、アムドゥスも入る?」 「ケケケ、遠慮しとくぜぇ。俺様は別に寒くないし、そんなぎゅうぎゅうん中に入りたくねぇ」 「ほんとかなー?」 「ケケケケケ」 「けけけけけ」  エミリアはアムドゥスに笑い返すとまたアーシュに頭を擦り付けた。 体重をディアスとアーシュに預けて。 まぶたを閉じると寝にかかる。 「…………」  アーシュはおもむろにエミリアの髪をくんくんと嗅いで。 「エミリアって猫みたいな匂いがするよね」 「え」  エミリアは顔を上げると前髪をぎゅっと引っ張って鼻の前に持ってくると、すんすんと臭いを嗅いで。 「うそ、あたしって臭い?」 「ううん、そう意味じゃないよ。おれ、村の猫の匂い嗅いでるの好きだったし」 「けけけ、そういうアーくんは子犬みたいな匂いするよね」 「えー、そうかな」 「そうだよ」 「ただの犬でもないんだ」 「うん。目がうるうるしてて、ぽてぽて走って、それで時々転んじゃうような子犬」 「それ、ホントに匂いだけのイメージ?」  アーシュが眉をひそめる。 「けけけけけ」  エミリアは笑うだけでアーシュの問いに答えない。 「そういえば、おれの腕を繋いでくれるお医者さんってどんな人なの?」  アーシュはディアスの顔を見上げると()いた。 「元冒険者で、スペルアーツもまだ広く普及していない時代から救護をやっていたらしい。そこで独学で人の身体を直接切ったり繋いだりの治療を行うようになったとか」 「その頃の一般的な治療ってなると?」  エミリアが()いた。 「薬草なんかの自然治癒力を高める治療がメインだな。まれに治療系のソードアーツが使える者もいたらしいけど、それもごく少数だ」
/397ページ

最初のコメントを投稿しよう!

197人が本棚に入れています
本棚に追加