#4 不死身の魔人

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「レオンハルト、お前さんは下で休んどれ。まだその腕は馴染んどらんじゃろう」  レオンハルトは右手を見ると握って開いてを数回繰り返して。 「オレもゆっくりしてたかったんだけど。だが子供のうめき声が聞こえてきたから確認にな」  レオンハルトはアーシュを見た。 ()いでアーシュの(かたわ)らへと移動する。 「かわいそうに。麻痺薬でも眠り薬でもなんでも使ってやればいいだろう」 「それをやったら腕がちゃんと繋がっとるかの確認ができんじゃろ。反応を見なくちゃならん。わしだって嗜虐心(しぎゃくしん)を満たしたくてやってるわけじゃないわい」 「どうせ確認しようとしまいと結果は変わんないだろ」 「少なくとも過程の観察によって、次の施術でより良い結果を出せるようになる」 「子供でそれをやるな」  レオンハルトはアーシュの目の前に手をかざした。 「()めんか、レオンハルト」  レオンハルトはドクターの制止を無視して。 「スペルアーツ《睡眠魔象(スリープ)》」  アーシュは頭をゆさぶられるような感覚を覚えた。 ()いで全身がふわふわとした浮遊感に包まれると意識を失う。  ドクターは大きなため息を漏らした。 タバコを吸うと紫煙(しえん)を吐く。    レオンハルトはアーシュの頬に触れた。 その手がアーシュの肌に吸い付いて。 レオンハルトはペロリと舌舐めずりする。 「ふーん、こいつ魔力なしか」  レオンハルトが呟いて。 「見るからにステータスも低そうだし、親近感が湧くな」  レオンハルトはにやりと笑う。 「魔物の血肉に耐性があればお前さんみたいに改造してやれるぞ? 余っとる魔物の腕でも付けてやろうか? ヒッヒッヒッ」  ドクターは笑いながら施術を再開した。 「……腕はどれくらいで使える?」  レオンハルトが自身の右腕を見ながら()いた。 「1日……いや、2日は欲しいとこじゃな」 「2日か。わかった」 「あの魔人を追うのか」 「ああ。早く本命の魔人を討伐しに行きたいとこだが、ここまでコケにされたら見過ごせない」 「お前さんに3度喰われた魔人か。ヒッヒッヒッ」  ドクターは笑って。 「何者なのじゃろうな。あの腕に喰われて無事なはずはないんじゃが」 「わからない。だが同一の魔人だったのは間違いない。味も同じ(・・・・)だったしな」  レオンハルトはペロリと舌舐めずりする。 「ギルドや王室の方はなんと」 「ギルドはそのうち調査員を派遣してくるとさ。親父達は取り合ってもくれないよ」  レオンハルトが肩をすくめた。 「勇者の称号を得てもなお不遇じゃの」 「勇者の肩書きを持つ人間が身内にいればギルド内での立場も良くなるって理由だけでオレを再び家に招き入れたからな。家にふさわしくない落ちこぼれから化け物に、扱いはむしろ下がってるよ」 「後悔しとるのか?」 「いいや」  レオンハルトは自身の中に魔物の血が溶け込み、それが巡っているのを感じて。 「ステータスも低くて魔力も少ない。そんなオレが力をつけるには正攻法じゃダメだ。選ばれた人間との差を埋めて追い抜こうなんて考えたらあの手この手で裏をかくしかない。真っ当なやり方で力を得られるのは一握りの人間だけだからな」  レオンハルトは眉間にしわを寄せて続ける。 「だから他の、ステータスとかスキルに恵まれた勇者は嫌いだった。ステータスに恵まれた赤と青、スキルに恵まれた黄と緑。唯一、白はオレと同じ落ちこぼれだったって話だから親近感が湧いてた。マイナーな剣技に走って誰もできないソードアーツの連続発動をものしたってのは素直に称賛したよ。オレと違って人間の範疇(はんちゅう)のやり方だからな。だがあいつは姿を消し、気づけば魔人堕ちだ」 「白の勇者の魔人堕ち…………機密事項じゃなかろうか。話してええのか」 「どうせあんたはもう知ってるだろ。ギルドに太いパイプがあるのは有名だ」 「ヒッヒッヒッ」  ドクターは笑いながら施術を進める。 「魔人堕ちした白の勇者の力、どんなもんなんだ」  レオンハルトが()いた。 「…………エレちゃんから話は聞いとるが、かなりのもんじゃったそうだ。まぁ、そんときはエレちゃんは直接剣を交えたわけではないみたいじゃが。ソードアーツの連続発動は健在じゃったそうだ。ソードアーツの使える魔人とはなかなか厄介じゃのう」 「オレが戦ったら勝てるか?」 「…………」  ドクターは手を止めるとレオンハルトに視線を向けた。
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