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────その時、部屋の外から女性の悲鳴が聞こえた。
次いで金属の音が響いて。
「待て! ……エミリアはアーシュを頼む!」
「わかった!」
部屋の外からディアスとエミリアの声。
「あの悲鳴、受付の…………!」
レオンハルトはすかさず走り出して。
建物の入口の方へと向かうと、そこには頭巾を目深に被ったエミリアと、胴を両断された女性の姿があった。
レオンハルトはエミリアに駆け寄る。
「君、無事か」
レオンハルトの問いにエミリアはうなずいた。
「そうか。……あまり見ない方がいい。それで、何があった」
「突然女の人に襲われたの。あの目、魔人だったと思う」
「女の魔人? 特徴は?」
「長い金髪で、左の頬に青い薔薇のタトゥーがあった」
エミリアが答えるとレオンハルトは舌打ちを漏らした。
その形相が怒りに歪む。
「あいつか。今度こそ、喰い殺してやる……!」
レオンハルトは外に出ると左右に視線を走らせた。
次いでエミリアを振り返って。
「どっちへ行ったか分かるか?」
「左の方。あたしの知り合いの冒険者が後を追ってる」
「わかった」
レオンハルトは駆け出した。
道を行き交う人々の間をすり抜けて。
次いで大きく跳躍するとその頭上を跳び越える。
「どこに行った」
レオンハルトは正面に城壁の高い壁を見つけると左腕をかざした。
その腕が瞬く間に黒い鱗に覆われると、4本の趾を持った異形のものへと姿が変わる。
レオンハルトは城壁に爪を突き立てると身体を持ち上げた。
勢いのままに上へと飛んで。
次いで身体をよじると、その背から現れたのは黒い鱗に覆われた長い尾。
レオンハルトは城壁の縁へとその尾を絡ませ、その上に上がる。
城壁の上には数名の衛兵。
皆一様に緊張の面持ちを浮かべていたが、レオンハルトの顔を見るとほっと息をついて。
「レオンハルト様!」
「王子、驚かさないでくださいよ」
「魔物が出たかと」
レオンハルトは尾をしまい、左腕を元の姿に変えて。
「またあの魔人が出た。捕捉できてるか?」
「西の商業地区の方に向かって走るそれらしき人影と、それを追う白いフードの冒険者の姿が」
「すでにあちらの警備には連絡しております」
レオンハルトは衛兵にうなずいて。
「よし、そのまま警戒を。オレは魔人を追う」
すかさずまた駆け出すレオンハルト。
城壁の上を走り抜けて。
途中他の衛兵達ともすれ違い、その背に声援を受ける。
「……あれか!」
レオンハルトは長い金髪の女性とそれを追う白いフードの冒険者を見つけた。
だが今走っている城壁はそちらへは向かわずに反対方向へとカーブしていて。
レオンハルトは城壁から跳んだ。
跳んだ先には太い通りと、その向かいには別な城壁。
レオンハルトは左腕を再び変化させて。
向かいの城壁に飛び付くと左腕の爪を壁面に突き立て、落下の勢いを殺す。
レオンハルトは石畳の地面が近づくと壁を蹴って飛び降りた。
危なげに着地しながらもすぐさま走り出す。
通りを抜け、路地へと入って。
レオンハルトは城壁に穿たれたトンネルの中へと入った。
トンネルの壁面に一定間隔で備え付けられたガス灯の淡い光がちらちらと踊っている。
トンネル内にレオンハルトの靴音が反響して。
そして地面を蹴る音。
レオンハルトが振り向いた先。
ガス灯とガス灯の間の暗がりから銀色の閃光が走る。
レオンハルトは異形化させた左腕で受け止めた。
受け止めたのは巨大なハサミの切っ先。
レオンハルトがその先へと視線を向けると、赤く発光した瞳が薄闇の中に浮かび上がる。
「元気にしてまして? 私はついさっき1人殺って上機嫌なの。また遊びましょうか、王子様」
女が言った。
女は腰まである長い金髪を編んで束ね、真ん中で分けた前髪を胸辺りまで垂らしていた。
目尻に長くアイラインを引き、カシスのような深い赤紫のリップを唇に塗って。
切れ長の目がレオンハルトを見据えている。
「遊ぶ? 今度こそ喰い殺して終いだ……!」
レオンハルトは左腕に力を込めると女のハサミを弾き返した。
すかさずその腕で女の首を狙う。
女は赤く光る瞳でその右腕を捉えると、すかさず身体を低く屈めて回避。
レオンハルトの左手の銀の爪が女の髪ごとトンネルの壁に刺さる。
すかさずレオンハルトは女の髪を掴むと引き寄せて。
その背から黒い尾が躍った。
だが女は自身のハサミで髪をためらいなく切り落とすとハサミを振りかぶりながら横に跳ぶ。
女はレオンハルトの操る黒い尾をかわして。
次いでトンネルの壁を。
さらに黒い尾を蹴って上に飛び上がった。
女はハサミを大きく開いて。
レオンハルトの頭上からその首筋目掛け、銀色の刃が迫る。
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