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2.イノリ
会社の食堂でランチをしながら同僚たちと雑談していると、最近流行りのコスメについての話題になった。ひととおり盛り上がった後、飯田さんという三十代半ばの女性が「化粧品といえばさ」と両手をぽんと打ち鳴らす。
「子供の頃って、お母さんの化粧品って何か憧れなかった? キラキラした化粧水の瓶とか」
「ああ、わかるわかる」
飯田さんと同期の北村さんが大きく頷いた。
「それでさ、私もお化粧するんだって張り切って化粧水の瓶を手に取るわけよ」
何となく展開読めるわ、と北村さんが笑う。
「やっぱり? ちょっとだけ出すつもりがどばどば全部出てきちゃってさ。死ぬほど怒られたよぉ。だってそんなに高いものだなんて思わなかったんだもん」
その話をきっかけに小さい頃にやったいたずらの話題になった。
「ねぇ、坂本さん、坂本さんも子供時代何かいたずらってした?」
突然話をふられた私は首を傾げる。
「うーん、うちは母子家庭で母さんも事故で私が小さい時に亡くなっちゃったからなぁ」
私の言葉に同僚たちが気まずそうに謝る。
「ごめん、変なこと聞いちゃって。そっかぁ。大変だったんだね」
私は笑って首を横に振った。
「ううん、もう昔のこと。それにその後、親戚の家に引き取られて実の娘のようにかわいがってもらったから。……そうね、あるわ、いたずら。亡くなった母さんに、一度だけ」
結局その後すぐに昼休憩の終わりを知らせるチャイムが鳴り私たちは仕事へと戻った。ふと窓の外を見ると雪がちらちらと舞っている。
――そう、あの日も今日と同じような天気だった。
私は思い出していた。一心不乱に祈ったあの時のことを。
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