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道明寺桜子は高所恐怖症ではない。
なので、その高層ビルの屋上から下の街を見下ろしても平気だった。
あ~、どうしよっかな~と桜子は手すりに顎をのっけて、ぼんやりとする。
素敵なカフェからブティックから書店から、会社の事務所まで。
雑多な店舗のつまったオープン直前のこのビルに、未だ、なんの準備も進んでいないスペースがあった。
桜子が所有しているスペースだ。
大学卒業後は仕事がしたい、と言ったら、
「じゃあ、お前の好きな店でも会社でも作れ」
と曽祖父である道明寺の会長に言われ、ここに放り込まれたのだが。
……なんか体良く追い払われただけのような気がする、
と思いながら、遥か下を走っている豆粒のような車を眺めていた桜子の頭上で、ヘリの音がしはじめた。
やけに近いが、まさか、ここではあるまいな……。
冷たい手すりを握り締め、桜子は身構える。
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