1 | 片腕の羊飼い - ベルスタ

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1 | 片腕の羊飼い - ベルスタ

 人間の言葉を話す魔物はいる。魔物の言葉を理解する人間もいる。しかしこの世にしゃべる犬が存在しているとは思いもしなかった。 「間抜けな顔だな」 「犬じゃないのか…」 「ははは、犬以外のなにに見えるんだ。お前はしがない羊飼いだし、私はただの牧羊犬だ」 「ただの牧羊犬は言葉を話さない」 「ワケありの、ただの牧羊犬なんだ」  人里から離れた山小屋。羊飼いの暮らしは孤独と退屈を覚悟していたが、どうやらそうでもないらしい。     ◇◇◇  牧羊犬のセルシウスとケルビンは、先代の羊飼いであるオンス爺さんから引き継いだ。  セルシウスの被毛はトライカラー。額の中央から鼻先、胸元、足先が白色、眉と口元、脚は栗色、それらをフード付きのケープでも羽織っているように艶やかな黒い毛が覆っている。  ケルビンの被毛は羊と同じ色をしていて両耳だけが砂色。骨格はセルシウスよりケルビンのほうが一回り大きくがっしりと重量感がある。  二匹ともこの辺りの山岳地域によくいる垂れ耳で長毛の大型犬種だが骨格は異なるから血筋は違うらしい。
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