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2 | 牧羊犬の正体 - セルシウス
稀代の魔術師シュルッセル・ラザフォードが国家転覆を企んでいる、なんて誰が信じるんだと思っていた。
なぜ私がそんな面倒なことをしなければならないのだ。
どうせ国土拡大に反対した嫌がらせだろうと放っておいたら、いわれのない罪をでっち上げられ罪人扱いになっていた。
自分の魔力を過信し、推進派の貴族連中を見くびっていたことは認めよう。まさか本当に命を狙ってくるとは思いもしなかった。
一連の事件から数年が経ち、客観的に振り返ってみれば、平和な国にとって強大な魔力は厄災でしかないとわかる。たとえばそれが、国のために尽くした魔術師であったとしても。
利権と陰謀が絡み合う王宮の相関図を当時の私は理解していなかったのだ。(正直なところ、今だって興味がなさすぎてろくにわかっていない。)
とにかく私個人の意思は関係なく、誰の意思をも無視して最悪の結末を辿ろうとしていた。だからとりあえず死ぬことにした。正確には、実際に死にかけたから、そのまま死んだふりをすることにした。
ほとぼりが冷めるまでは魔力も封じて大人しくしていよう。私は消えるからあとは好きにしてくれ、と考えていたのに。実際に勝手にされると我慢ならない。
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