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新聞記事によれば、誰かがシュルッセル・ラザフォードの名を語って根も葉もない噂だった国家転覆を本当に企んでいるらしい。
新聞の情報だけでは本当のことはわからないが、この記事に一割でも真実があるとすればそれは見過ごすことができない。人様の名前に泥を塗るとはいい度胸だ。
◇◇◇
山を下りるのは二年ぶりだった。
魔力を使うと気配が残るため犬の姿のまま暗闇を駆けていく。目指すはパウンダル辺境伯のラザフォード家邸宅だ。
しかし、私の仮の姿を知っているのは先代の羊飼いであるオンスと姉のキュリーだけ、ということを思い出したのは、夜が明けて邸宅の門前にたどり着いてからだった。
まずはオンスと会ってから取り次いでもらったほうがよさそうだ。
「まあ、素敵なリボンね」
気配なく急にかけられた声にぞわりと悪寒がはしる。使用人の恰好をした女が後ろに立っていた。朝日の加減で顔はよく見えない。
「魔力を感じるわ、どこかのお宅からのおつかいかしら」
魔力?
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