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「落ち着きましょう、お茶をどうぞ」
こんなはずではなかったのに、という苦々しい思いで差し出されたボウルを受け取る。ベルスタの言うとおり手紙は捨ててしまえばよかったのだ。
セルシウスの正体を打ち明けたのだから、ベルスタと微妙な距離感もなく体を重ねられるはずだったのに。こんな姿になってしまってはできないではないか…と考えて、忌々しい過去を思い出す。
十三歳でルーメン教授に師事した頃、世間知らずだった私は教授に言われるまま魔力の交換をしていたのだ。
「最悪だ…嫌なことを思い出した…」
当時のことは思い出したくもないが、やってできないことはないということか。
「大丈夫ですか?」
向かいに座ったベルスタが心配そうにこちらをうかがう。
「俺にできることがあれば言ってください。魔術は使えないし、あまり役には立てそうにないですが」
従順な羊飼いの言葉によこしまな下心がうずいた。
「そんなことはない」
だぼついた袖口もそのままに縮んだ体で机に身をのりだし、ベルスタの手を取る。
「お前にしかできないことがある」
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